VIPと病院の怪しい舞台裏

高額なのはがんとリハビリ 長嶋茂雄氏は一般人と同じ治療

長嶋茂雄さん(左)と故・菅原文太さん
長嶋茂雄さん(左)と故・菅原文太さん(C)日刊ゲンダイ

 東京女子医大は循環器系が強く、球界の大スター長嶋茂雄を脳梗塞から救ったことで知られる。大病院の中には、VIPの治療を引き受ける“病院中の病院”もあり、一般の人も受診できなくはないが、VIPが受けるような医師団が組まれることはないだろう。VIPが受ける治療や検査と一般人が受けるのは、何が違うのか。

 2004年に心原性脳塞栓に倒れたミスターの治療を担当したのは、東京女子医大神経内科教授(当時)の内山真一郎氏だ。米国のトップクリニックといわれるメイヨークリニックに留学して腕を磨いた脳卒中治療の第一人者で、一般人が治療を受けるには3カ月待ちといわれていた。

 10年前に同じ病気で倒れたサッカー全日本元代表監督のオシム氏は、順天堂浦安病院に運ばれた。長嶋と同じ血栓を溶かす治療に加え、脳を低温に保つ治療も施された結果、発症前と変わらないほど回復している。

 東京都健康長寿医療センター循環器内科顧問の桑島巌氏が言う。

「医師団と聞くと仰々しいですが、長嶋さんやオシムさんに行われた治療は一般の人でも受けられます。治療費は、05年から公的保険でカバーされますから、特別なものではありません。VIPとの違いがあるとすれば、がんの治療など医療費がかさむケースです」

■菅原文太さんの陽子線治療は当時285万円

 実は、退院した2人がリハビリ治療を受けたのは、東京のリハビリ専門病院だ。BSフジで、右腕にギプスをはめたミスターが「イチ、ニー、シャン、シー」と「サン」と言えず数を数えながら歩行訓練する姿が流れたこともある。365日、一日も休まずリハビリを行う徹底ぶりが有名なのだ。

 だが、大部屋は空きがないことが多く、希望すればすぐに入れるとは限らない。そこで個室はというと、料金は1日3万円台から10万円! 健康保険は利かない。数カ月の“長期戦”を余儀なくされるリハビリで、その治療費以外に1日最大10万円を負担し続けるのは、一般人には無理だろう。

「一般の方は、保険診療の範囲で治療法を選択しますが、保険が利かず全額自己負担の高度先進医療なども含めて選択するのがVIPです」と言うのは、医学博士の左門新氏だ。

 3年前に転移性肝がんで亡くなった昭和の大スター菅原文太(享年81)は、07年、原発の膀胱がんに対して筑波大付属病院で先進医療の陽子線治療を受けている。陽子線は一般の放射線より腫瘍に集中的に照射でき、なおかつ正常組織へのダメージは少ない。亡くなるまで7年間、芸能活動のほか農業などにも積極的だったから、治療の成果は十分だろう。

 が、その費用は当時、285万円。現在は293万円だ。がん保険の先進医療特約に加入していなければ、一般人には手を出しづらいだろう。

 薬もそうだ。国内で未承認の薬を海外から取り寄せて使うとなると、全額自己負担。一時、年間の薬代が3000万円とベラボーな薬価が話題になったオプジーボみたいな抗がん剤を取り寄せることは一般人にできるはずがないだろう。

 資金力を背景に治療の選択肢が豊富なのがVIPだが、膵臓がんで亡くなったスティーブ・ジョブズや乳がんで命を落とした小林麻央さんのように、民間療法に頼って病状を悪化させるケースもなくはない。

「いい治療を受けられるかどうかは、腕のいい医師を見つけられるかどうかに尽きます。VIPなら“ご用聞き”がいて、そういうチャンスに恵まれる可能性が高いでしょう」(左門氏)

 しかし、“ご用聞き”が無能だと、資金力があるだけに、策に溺れかねないという。

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