がんと向き合い生きていく

男性医師の心ない一言に「屈辱」を感じる女性患者は少なくない

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 高校の同級生だったK君からしばらくぶりに電話があり、こんな相談をされました。

「30歳になる娘が、近くの医院で乳がんの疑いがあるから専門の病院を受診するように言われたんだ。妻も乳がんだったから心配で……。ただ、娘は男性医師に診てもらうのは嫌みたいで、女性医師を強く希望している。乳腺外科で紹介してもらえる女性医師はいないだろうか?」

 さっそく、親しい乳腺外科の女性医師Yさんを紹介すると、数日後、K君から電話があり、「診察してもらって、がんではなかったとのことだった。本当によかった。娘は診察してくれたY先生にとても感謝している。今後、念のため年1回診ていただけるようだ。病院に行くのも嫌がらなくなった」と喜んでもらえたようでした。

 若い女性の中には、女性特有のがん(乳がん、子宮がんなど)で女性医師の診察を希望される方がいらっしゃいます。女性医師なら楽な気持ちで診察をしてもらえる、そしていろいろ相談しやすいというのも本音だと思います。

 女性医師でも男性医師でも、信頼できて安心して任せられるということが一番大事とは思いますが、それだけではないようです。最近はほとんどなくなったと思いますが、男性医師の人権無視というか「気配りのなさ」を感じた患者さんの話を思いだします。

 卵巣がんだった主婦のBさん(43歳)は、ある病院の婦人科で両側の卵巣摘出の手術を受けたあと、回診中の担当医から「がんはしっかり取れました。大丈夫ですよ。でも卵巣がなくなったのであなたは女性ではなくなりました」と言われたというのです。Bさんは、「中学生の息子のいる前で、なぜそんなことを言われなければならないのか。月経がなくなったことを言いたかったのでしょうか。治療には感謝しているが、忘れられない屈辱だった」と憤っておられました。

■女性医師を希望するならウェブサイトをチェック

 同じような話が某大学病院でもあったと聞きます。子宮がんの手術で子宮全摘術を受けた患者さんが、医師から「女性でなくなった」と言われたというのです。

 気配りのなさを感じるのは、男性医師に対してだけではないようです。出版社に勤めるMさん(36歳)は、両側の乳がんの診断で、乳房切除術を2回受けました。仕事に復帰した際、10人ほどの社員が揃った職場で、Mさんは「長い間、お休みをいただいてしまって申し訳ありません。もう、大丈夫だと思います。乳がんの手術で両方の乳腺をとりました」と頭を下げて報告したそうです。 その後、周りの男性社員のMさんを見る目や雰囲気がなんとなく変わったといいます。

 最近は女性の医師も多くなりました。内科、眼科、皮膚科だけではなく、がんの診断・治療で放射線科や外科でもお見かけします。とはいえ、病院の各科で女性医師が揃っているわけではありません。女性医師に診てもらいたくても、なかなか希望通りにはいかないことが多いと思います。

 女性医師の診察を希望される場合は、受診する科で女性医師が診察してくれる外来があるかどうか、病院のウェブサイトで探すのが早いでしょう。また、病院の新患受付や相談室に聞いてみるのもひとつの方法です。

 以前、こんなこともありました。ある男性医師が、女性の乳がん患者に「卵巣に放射線をかけて卵巣機能をなくす治療法です」と淡々と説明して同意を得ました。その男性医師は同じ時期に男性乳がんの患者も診ていたのですが、「ホルモン治療として睾丸摘出術を行いたい」と説明した際、患者と一緒に涙を流されていました。両方とも治療の原理は同じはずなのに……。とても印象に残っています。

 まだまだ“男社会”といえる日本において、体力面でも男性に負けずに長時間の労働に耐え、患者には優しく接し、家庭、子育て、研究にいそしみ、大学教授や病院の部長になって、さらに後輩を育成する……。まさに八面六臂の活躍をされている女性医師を私は何人も知っています。頭が下がる思いです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事