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スマホで服用チェック 米で初認可の“デジタル錠剤”に賛否

 11月、アメリカ食品医薬品局が通称「スマートピル」を初めて認可しました。医師が処方した薬を患者が処方通りに服用しているかを知ることができるデジタル錠剤です。

 大塚製薬とプロテウス・デジタル・ヘルスが開発した「エビリファイマイサイト」は、統合失調症、そううつ病などの治療に用いられる向精神薬エビリファイの錠剤にセンサーを埋め込んだ薬です。シリコーン、銅、マグネシウムで作られたセンサーは砂粒ほどの大きさで、飲み込んでから胃に入ると胃液と反応して信号を発します。

 その信号を患者の体に装着されたパッチが受信。パッチはブルートゥースでスマートフォンに接続され、専用アプリに信号が集められて医師や家族がチェック可能になります。薬を服用したか否かだけでなく、服用量、患者の運動量や脈拍、睡眠パターンなども記録されるというから驚きです。

 アメリカでは薬を指示通り服用せずに症状が悪化し、さらなる治療が必要となる患者は珍しくありません。その分の医療費は100億円にも及ぶという数字も出ています。統合失調症患者ら、自らの意思で薬の服用が難しい場合もあります。そうした問題を解決する手段のひとつとして、デジタル錠剤が開発されたのです。

 ところが、このデジタル錠剤は手放しで歓迎されているわけではなく、メディア報道では批判も目立っています。最大の理由はプライバシーの侵害。政府や保険会社が患者の情報を簡単に得ることができるようになり、彼らにとって有利に利用される可能性もあるからです。

 以前、心臓ペースメーカーなどのハッキングの危険性についてお伝えしましたが、この錠剤も同様でハッカーに狙われる可能性が小さくありません。さらに、医師が患者に服用を強制することになり、患者の自由が失われたり、医師との信頼関係が悪化するという意見もあります。

 アメリカでは、ほかにも同様の治療薬、治療法が認可を待っています。今後、さらなる研究開発が進むとともに、患者の自由やプライバシーをどう守っていくかの論争が激しくなりそうです。

シェリー めぐみ

シェリー めぐみ

NYハーレムから、激動のアメリカをレポートするジャーナリスト。 ダイバーシティと人種問題、次世代を切りひらくZ世代、変貌するアメリカ政治が得意分野。 早稲稲田大学政経学部卒業後1991年NYに移住、FMラジオディレクターとしてニュース/エンタメ番組を手がけるかたわら、ロッキンオンなどの音楽誌に寄稿。メアリー・J・ブライジ、マライア・キャリー、ハービー・ハンコックなど大物ミュージシャンをはじめ、インタビューした相手は2000人を超える。現在フリージャーナリストとして、ラジオ、新聞、ウェブ媒体にて、政治、社会、エンタメなどジャンルを自由自在に横断し、一歩踏みこんだ情報を届けている。 2019年、ミレニアルとZ世代が本音で未来を語る座談会プロジェクト「NYフューチャーラボ」を立ち上げ、最先端を走り続けている。 ホームページURL: https://megumedia.com

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