芳香柔軟剤・消臭剤で体調不良は化学物質過敏症だった

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 いま、人が最も気にするのはニオイだという。「くさい」と言われるのは大きな恥辱で、若い女性だけでなく思春期の男子でさえ、ニオイには気を使う。そのため芳香柔軟剤や制汗剤、消臭剤などが大人気だが、それが新たな「化学物質過敏症」(CS)を招いているという。北里大学名誉教授でCS治療専門クリニック「そよ風クリニック」(東京・杉並)の宮田幹夫院長に聞いた。

「CS治療を希望する患者さんは2カ月待ち。それほどこの病気に悩む人は多いのです」

 2000年までは建材に含まれるホルムアルデヒドやトルエンなどで引き起こされるシックハウス症候群がマスコミをにぎわせたが、建築基準法改正で沈静化した。その一方で、最近急増しているのが「臭害」対策によるCSだ。NPO法人・日本消費者連盟が7~8月に2日間限定開設した「香害110番」にも200件を超える訴えが寄せられた。

「私の患者さんの中にも柔軟剤や香水などの香料が原因のCSは大勢います。60代のある女性は、隣にコインランドリーができて、乾燥機からの排気に含まれる柔軟剤の化学物質でCSを発症、頭痛や記憶障害などの症状に悩まされています」

■建材、農薬に続く第3のリスク

 CSとは、化学物質を取り込むことで喉や鼻の不調、頭痛やアレルギーの悪化、記憶力の低下などさまざまな症状を起こす病気のこと。個々人の化学物質の許容量を超えると発症する。診断・治療のできる専門医が少ないことから、「気のせい」と片付けられるケースも多い。

 この病気が厄介なのは、原因となる化学物質の種類が膨大で、特定するのが困難なこと。一説には地球上には1億種類以上の化学物質があり、2・6秒に1つずつ増えているといわれている。

「しかも、いったん過敏症を獲得すると、その後さまざまな物質にも強い反応が出るようになる。化学物質以外の自然の物質にまで反応して外出すらできなくなるという人もいるのです」

 CS患者の多くがアレルギーを持っていることから同一視されがちだが、まったく違う。アレルギーは体内に侵入した異物に反応する免疫反応で、血液の抗体検査でわかる。しかし、CSは神経反応であり、脳が過敏に反応することで起こる全身症状だ。

「機能性MRIや近赤外線トポグラフィーなどで調べると、CSの患者さんが化学物質に接すると、脳の血流に変化が生じることが確認されています」

 CSの原因となる化学物質が体内に入る経路は呼吸が80%以上、食べ物や水など口からが十数%。皮膚からも侵入する。

「成人が1日に摂取する食べ物は1キログラム、水は2リットル程度。ところが、空気は15~20リットルもある。そのうえ、化学物質を食べ物と一緒に取れば肝臓である程度の解毒が可能ですが、化学物質を鼻や口から吸うと、肺から直接血液に取り込まれるので毒性が強くなります」

 しかも、芳香柔軟剤や消臭剤などはニオイと直接結びつくだけに脳への刺激が強く、記憶障害などを受けやすい可能性がある。

「もともと、記憶はニオイと強いつながりがある。たとえば、ワインを飲みながらサッカーの試合を見たとします。頭の中では『スタジアムの歓声』『ユニホームの色』などとともに、その場の『ニオイ』が記憶として脳に刷り込まれます。そうした個々の記憶を互いに関連づけることで、ひとつの出来事を覚えるのです」

 逆に言えば、CSの人は記憶したときと同じニオイをかぐと記憶が蘇り、過敏症の症状が出やすい。

「合成洗剤は石鹸に、衣類や寝具はできるだけ天然のものに替えて、体内に取り込まれる化学物質の量を減らします。米、野菜、お茶はできれば無農薬のものを選び、ビタミンやミネラルを多めに取るなどして、食事で化学物質を排出しやすい体質に変えましょう。同時に、化学物質を感じても別の楽しいことを考えるなどして、CSの記憶に結びつかないようにすることも重要です」

 化学物質は他にアスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)を含む発達障害や、不妊症、尿道下裂などの先天的な男性生殖器の異常とも深い関わりが疑われている。

 人がにおうのは当然のこと。それを消すためにお金をかけ、健康まで損ねるとしたら、バカバカしいことではないか。

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