Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

30代女性は男性の2.6倍も 若年成人がんの治療法と予防法

小林麻央さんは34歳で乳がんで亡くなった
小林麻央さんは34歳で乳がんで亡くなった(C)日刊ゲンダイ

 がんの罹患数は毎年増えていて、今年は101万4000人と推計されます。がんは老化現象の一種で、高齢社会の今、仕方ない結果ですが、若くして発症するケースも少なくありません。実は20~39歳の若年成人だと、男性より女性が多いのが特徴です。

 国際がん研究機関は、若年成人のがんについて新規発症者数と死亡数の年間推計を初めて調査。2012年は全世界で約98万人が発症し、約36万人が死亡したと発表しました。そのうち、発症は女性が3分の2、死亡は女性が過半数を占めたのです。

 その傾向は、日本でも変わりません。特に30代に限ると、女性のがん患者は、男性の2・6倍に上ります。なぜかというと、乳がんと子宮頚がんが比較的、若い世代に多いためです。今年6月、乳がんで亡くなった小林麻央さんは34歳でした。

 乳がんは、女性ホルモンの影響を受けて増殖するため、ピークの40代後半にかけて患者数は右肩上がりですが、閉経後は減ります。一方、子宮頚がんは、ほぼ100%がセックスが媒介するHPVのウイルス感染が原因です。セックスの低年齢化により、若い世代に広がっています。

 見逃せないのが、甲状腺がんです。患者は、若年者から年齢が上がるにつれて増え、男女別では女性に多いのが特徴。高齢女性には、ほぼ全員に見られる一方、女子高生でも決して珍しくありません。

 そんなデータに触れると、女性にとって厄介ながんと思われるかもしれませんが、甲状腺がんには生涯にわたって生命にまったく影響を及ぼさない「潜在がん」があるのも事実です。男性の前立腺がんも治療せず経過観察で済むタイプがあるのと似ています。

 甲状腺がん検診が行われている韓国では、そういう潜在がんの掘り起こしが進んだため、治療の必要がないのに切除などを行う過剰治療が問題になりました。全摘すると、甲状腺から分泌されるホルモンがストップするため、生涯、ホルモン剤の服用が欠かせません。過剰治療の代償は、とても大きいのです。

 ですから、甲状腺がんについては、小さなものはたとえ見つかっても慌てて治療を受けてはいけません。では、ほかのがんはどうするか。

 子宮頚がんは、ワクチンの副反応問題がありますが、接種で予防できるのは事実です。乳がんは毎月の自己触診と定期的に検診を受けていれば早期発見できます。ところが、子宮頚がんも乳がんも、女性のがんの検診は40%前後と受診率が低い。周りの女性の健康を考えるなら、積極的にがん検診を受けさせる環境を整えることが大切でしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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