気鋭の医師 注目の医療

スマホを用いたICT医療の導入で医療費8%と入院日数15%の削減に成功

髙尾洋之准教授(右)とスマホ医療イメージ写真
髙尾洋之准教授(右)とスマホ医療イメージ写真(C)日刊ゲンダイ
髙尾洋之准教授 東京慈恵会医科大学・先端情報技術研究講座(東京都港区)

 近年、医療分野へのICT(情報通信技術)の導入が活発になっている。その急先鋒に立つのが東京慈恵会医科大学だ。西新橋キャンパス再整備計画に伴い、2019年完成予定の新外来棟オープンに合わせて病院全体のICT化を進めている。

 同講座は、その技術開発の基礎研究から臨床応用までを幅広く取り扱う部署。15年10月には付属4病院の医療スタッフが使うアップル製「iPhone6」約3500台の導入を指揮。すでに一部の診療科の臨床現場ではスマホを用いたICT医療が始まっている。脳神経外科と兼務し、同講座を指揮する髙尾洋之准教授(顔写真)が言う。

「いま実際に稼働するスマホを用いたICT医療のひとつは、複数の医療関係者間でコミュニケーションを取るためのアプリ『Join』を使った遠隔医療です。院内の脳卒中系を中心とする救急部門の医師間(DtoD)では14年から使っています。また、脳卒中患者の診療に関しては、当院と虎の門病院、東京都済生会中央病院の病院間でもDtoDがつながっています」

 たとえば脳梗塞治療では、発症から4時間半以内に脳血栓溶解剤の「t―PA」を投与したり、8時間以内に血栓除去の血管内治療を実施したりすれば、後遺症が軽減できる可能性が高い。その迅速な対応が患者の生死や予後を左右する。たとえその場に専門医がいなくても、当直医とベテラン医師がJoinでつながっていればリアルタイムで画像やメッセージのやりとりができるので、緊急時のチーム医療が実現できるのだ。

「遠隔医療によって医師は自宅に帰れるし、ムダな緊急時の待機時間が抑えられるのでICTの活用は医療現場の働き方改革になるのです。それに適切な処置のスピードが向上するので、患者さんのメリットも非常に大きい」

■過去の患者情報を医療機関で共有する試みも

 同大ではJoin導入前後を比較して、ICTを用いた脳卒中治療の効果実績を調べている。それによると「診断時間40分削減」「直接的医療費8%削減」「入院日数15%削減」という結果が出されている。

 Joinを使って遠隔で医療画像を確認した3642症例(昨年7月1日時点)において、診断に問題があった症例は1例も確認されていないという。

 もうひとつ進めているのは「パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)」。患者本人が自らの健康・医療情報を経年的に把握できる仕組みの構築だ。

「PHRは、つまり病院がもつ医療情報を患者さんのスマホに返す仕組みです。これによって患者さんは緊急時など過去の医療情報を別の医師(病院)へ渡すことができます。また、患者さんに同意の取れた医療情報はクラウドに集積し、研究機関や企業が活用できるようにします。そのビッグデータはAI(人工知能)の開発にも大いに役立ちます」

 外来患者の負担を減らすアプリ(診察券・処方箋・領収書の電子化、オンライン決済など)もすでに実用されている。血圧や脈波などのデータが医師のスマホと共有ができる腕時計型端末や、人型ロボット「ペッパー」が測る血圧測定(白衣高血圧の防止)なども開発中という。

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