年をとったら「太る」を目指す

寝ているだけの生活では筋肉量がどんどん落ちて痩せていく

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 入院して手術を受けると、痩せることが多い。理由は主に「手術の影響」「動かない(動けない)こと」「点滴による摂取エネルギーの減少」です。

 若くて体力がある人であれば多少痩せても大した問題ではありませんが、もともと痩せていて、スタスタ歩けないような高齢者であれば、寝たきりになったり命に関わります。だから、栄養管理には十分に気をつけなくてはなりません。

 前回も触れたように、高齢者の点滴は平均的に1本500ミリリットル(100キロカロリーほど)、1日3本で、300~400キロカロリーしかありません。もし、ご家族がそのような状態であれば、点滴の内容を脂肪やアミノ酸を含んだ、より高エネルギー、高アミノ酸のものにしてもらえないか、主治医や看護師さんに相談すべきです。

 手術を受けてベッドに寝ているだけの生活が続くと、筋肉量がどんどん落ちていきます。つまり、痩せます。1日寝ていると、0.5~1%は筋肉が落ちます。

 筋肉量低下を回避するには、一日でも早く体を動かさなければなりません。具体的には「体をベッドから起こす」「トイレで用を足す」などで、これらも立派なリハビリになります。

 一方で、栄養状態が悪い場合、やってはいけないリハビリがあります。筋肉量を増やす筋トレがその代表です。

 先日、ある患者さんが紹介されてきました。慢性呼吸不全で入院されていたその方は、身長145センチ、体重19キロ。上腕回りは12センチ。食事をうまくのみ込めず、点滴を受けていたのですが、1日の摂取エネルギー量が100キロカロリーで、あまりにも少なすぎでした。私は「歩行などのリハビリの前に栄養状態を良くすることが絶対不可欠」と判断し、主治医に伝えました。

 結局、その患者さんは転院されたので、その後どうなったかわかりません。栄養管理をきちんとされていることを切に願っていますが、栄養管理に熱心でない医師がいまだ少なくないことも事実です。

若林秀隆

若林秀隆

リハ栄養、サルコペニア、摂食嚥下障害を特に専門とする。日本リハビリテーション医学会指導医・専門医。

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