がんと向き合い生きていく

93歳のおばあさんが治療した分だけ長く生きた意味

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 孫娘は、「え!? そんな言われ方をするの?」と心の中で思いながら、黙っていたといいます。ただ、その言葉が強烈に頭に残ったそうです。

 孫娘は悩みました。

「おーばっぱは治療せずに亡くなった方がよかったのだろうか。本当にその方が幸せだったのか。意識がない状態の今の方が本当に苦しいのだろうか。考えることもできず、何にもできないおーばっぱが、治療した分だけ長く生きた意味はなかったのか……」

 その2日後、お母さんが病院から帰ってくるのを家でひとり待っていたT君から、こんな言葉をかけられました。

「おーばっぱ、どうだった? 元気になって、また遊べるようになるよね。絶対に良くなるよね」 孫娘は、何か急に助けられたような、吹っ切れたような気がしたといいます。おばあさんが戻ってくるのを心待ちにしているT君の言葉に、「治療して長く生きた分、おーばっぱと息子が一緒に過ごしたかけがえのない時間も延ばすことができた。やっぱり、治療して長く生きて良かったんだ」と思えたのです。

 さらに、時々、小さく痙攣が続くおばあさんの姿を見て、あらためて強く感じたといいます。

「おーばっぱの命は生きようとしているんだ」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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