多くが悩む「ふるえ」って何? 症状や治療法を専門医解説

手がふるえて食事が難しくなる場合も
手がふるえて食事が難しくなる場合も(C)日刊ゲンダイ

 中高年に多い悩みの一つが「ふるえ」だ。どういう病気が考えられるのか? 東邦大学医療センター佐倉病院神経内科の榊原隆次教授に聞いた。

 佐倉病院では病気に関する市民講座を年11回行っている。榊原教授らが過去に行った「ふるえ」と「しびれ」の市民講座では、天候が悪かったにもかかわらず、参加者数が245人とずばぬけて多かった。同講座で歴代2位の記録だという。

「年代に関係なく身近な症状がふるえです。しかし、ふるえを専門とする診療科が神経内科と知らず、さらに神経内科そのものの認知度も低いため、どこを受診していいかわからない患者さんが多いように感じています」

 ふるえとは、「何かしようとすると手がふるえる」「ふるえを止めようと思うほど強くなる」「ふるえのせいで料理や食事、字を書くなど生活に欠かせないことが満足にできなくなる」など。

 これらを起こす病気は「姿勢・運動時のふるえ(何かしようとした時にふるえる)」「安静時のふるえ」「その他」に大きく分類される。

「姿勢・運動時のふるえで代表的なのが、本態性振戦、甲状腺機能亢進症、アルコール依存症、ぜんそくや精神科の治療薬によるふるえなどです。安静時のふるえでは、神経伝達物質の異常などによるパーキンソン病が挙げられます」 

■病名を知るだけで症状が軽減する人も

 榊原教授の経験上、ふるえを訴えて受診する患者のほとんどが本態性振戦とパーキンソン病で、その割合はだいたい8対2。本態性振戦は原因不明の病気だが、命にはかかわらない。最近では遺伝との関係も指摘されている。しかし、ふるえの中には原因がハッキリしていて治療可能な病気も含まれているため、鑑別診断が非常に重要だ。たとえば甲状腺機能亢進症は絶対に見落としてはいけない疾患。比較的若く、動悸があり、汗をかく、イライラする、ストレスが強い、目が一見きついような印象を受ける、などがあれば、甲状腺機能亢進症を疑い、検査を行う。

「甲状腺機能亢進症には特効薬があり、薬物治療で症状がほぼ100%改善します。ただ、見落とされてしまうと、激烈な脳症や意識障害などのリスクがあります」

 前述の通り、本態性振戦は姿勢・運動時のふるえで、パーキンソン病は安静時のふるえだが、時に見分けがつきにくい。「ダットスキャン」や「MIBG心筋シンチグラフィー」という画像検査、脳血流の検査や小脳・基底核、前頭葉のGABA機能を見る検査が見分けに役立つ。本態性振戦は遺伝子の異常との関係も近年指摘されており、家系の病歴が診断の手がかりになることもある。

「本態性振戦では、ある種の高血圧治療薬やてんかん治療薬が効果的です。日常生活に支障をきたすほどふるえがひどい患者さんでは、脳にペースメーカーのようなものを埋め込み、ふるえを止めるDBS(脳深部刺激法)の治療が検討されることもあります」

 一方、パーキンソン病では薬物治療が中心。原因は解明されていない部分もあるが、神経伝達物質の異常で不足した脳内ホルモンを薬で補う。

 残念ながらどちらも完治は難しい。ただ、ふるえの多くを占める本態性振戦は良性の疾患で、患者の中には「病名が分かっただけで安心した」と言い、薬を飲んでいないのに「症状が軽減した」と報告する人もいる。

 また、パーキンソン病も現在は複数種類の症状改善薬があり、うまく付き合っていくことが可能だ。

「不安やストレスがあるとふるえなどの症状が強く出る傾向があります。患者さんには病気のことをしっかり理解してもらうことが、病気と付き合っていく上で重要です」

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