12月は事故で救急搬送も増 年末大掃除が意外な病気を招く

高所の掃除や冷たい水には注意
高所の掃除や冷たい水には注意(C)日刊ゲンダイ

 12月に入り、大掃除を計画中の人も多いはず。一年間の住まいの“垢”を落とすことは大切だが、それが原因で病気やケガに苦しむ場合もある。

 東京消防庁によると2016年までの5年間に掃除中の事故により3747人が緊急搬送され、大掃除をすることの多い12月は632人とダントツに多かった。

 そのうち39.0%が死亡・重篤・重症を含めた中等症以上のケガ。「転んだ」「落ちた」「ぶつかった」は全体の73.0%を占めたが、必ずしも高齢者や具合の悪い人ばかりではないので注意が必要だ。「赤坂パークビル脳神経外科」(東京・港区)の福永篤志医師が言う。

「脳は4本の大きな動脈によって血液を供給されています。左右に1本ずつある内頚動脈と椎骨動脈です。内頚動脈は気管・喉頭の両側を走り、椎骨動脈は首の骨(椎骨)を貫いています。電球の取り換えや換気扇の掃除などで首を大きく後ろに曲げる姿勢をとると椎骨が椎骨動脈を圧迫し、健康な人でも血流障害を起こし、脳が虚血状態になることがあるのです」

 その状態で手を動かすと一時的に意識を失う可能性が高くなる。椎骨動脈は肩口から先の手(上肢)に血液を供給する鎖骨下動脈から枝分かれしているからだ。

「椎骨動脈を圧迫した状態で手を動かすと、本来なら脳に行くべき血液が上肢に流れる盗血現象が起き、脳に血が通わなくなるのです」

 それでなくても動脈硬化が進んでいる中高年は心臓から遠い左鎖骨下動脈が狭窄しがちで、左腕がしびれたり、冷たくなるなどして掃除中はバランスを失いがちだ。

「この姿勢が恐ろしいのはその直後です。首を上げた状態を続けていると椎骨動脈に血栓ができる場合があります。姿勢を戻し、血流が戻ると、首にできた血栓が脳に勢いよく飛んで脳梗塞を起こすことがあるのです」

 掃除中に高い所から落ちたり、転んだりして頭を打てば傷だけではすまない。頭蓋骨と脳を包む硬膜がぶつかり合って毛細血管が切れ、その隙間に血がたまる硬膜外血腫や、硬膜と脳の間に血がたまる硬膜下血腫を発症する可能性も。

「どちらも激しい頭痛や嘔吐、意識障害が出て最悪、脳幹がダメージを受け呼吸障害などで亡くなることがあります。少しずつ出血し、頭を打って1~3カ月後に頭痛を感じたり、精神状態がおかしくなったり、認知症のような記憶障害が出る人もいます」

■ゴム手袋、ゴーグル、マスクが必要

 普段、力仕事をしない人が掃除をするとそのいきみから血圧が上がり、心臓や脳に負担がかかる。とくに冷たい水を扱う場合は注意が必要だ。

「冷水は血圧を急上昇させます。4度の水に片手を1分間つけるだけで血圧が50㎜Hg上がるとの報告もある。それが原因で脳の動脈瘤が破裂することもあります。実際、冬に外で洗車していて、くも膜下出血になった40代の患者さんもいました」

 大掃除で舞い上がった大量のホコリやカビを吸い込んで病気になるケースもある。「北品川藤クリニック」(東京・北品川)の石原藤樹院長が言う。

「よく診るのは過敏性肺炎です。本来は毒ではないホコリやカビ、化学物質などを繰り返し吸入することで生体反応が敏感になり、肺にアレルギーを起こす病気です。発熱と乾いた咳が主な症状で、ステロイド薬などで治療すれば数週間で完治します。しかし、初期症状が風邪やインフルエンザと似ているため、適切でない治療により慢性化することがあります」

 そうなると息切れや疲労感が出て治りづらくなり、呼吸不全が進行する。

 洗剤が思わぬ事故を招く場合もある。浴室のカビ取りに塩素系洗剤を使用。その後、水などで流さずに酸性洗剤で掃除して発生した塩素ガスを吸い込み、具合が悪くなる例が報告されている。

 ほかに注意したいのは洗剤などの化学物質が目に入る化学眼外傷。失明に至ることもある。清澤眼科医院(東京・南砂)の清澤源弘院長が言う。

「傷を受けた直後は眼球表面の組織に炎症が起こり、角膜の表面が完全にはがれたり、角膜全体がすりガラスのように濁ってしまうことがあります。化学物質がアルカリ性だった場合は角膜に浸透して眼の内部にまで障害を及ぼすことも。重症の場合、眼球とまぶたが癒着したり、後に白内障や緑内障などを引き起こす可能性があります」

 最近は水道水などを電気分解することで得られる物質を使った掃除用品が人気だが、pH11以上の強アルカリ製品の扱いは注意しなければならない。

 大掃除では少なくともホコリがつきにくい服装と帽子、ゴム手袋、マスク、ゴーグルで身を固め、温水を使うよう心がける必要がある。

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