気鋭の医師 注目の医療

カテーテルを痛む場所まで移動し微細血管もろとも神経を消失させる

オクノクリニックの奥野祐次院長
オクノクリニックの奥野祐次院長(提供写真)
奥野祐次院長/オクノクリニック(神奈川県横浜市)

 血管にカテーテル(軟らかい細いチューブ)を挿入して治療する“カテーテル治療”といえば、脳心血管疾患でよく使われている。しかし、同院が行う「運動器カテーテル治療」は、肩、腰、膝、股関節などの関節痛や帯状疱疹後神経痛などの慢性的な痛みを改善させる新しい治療法。画期的なのは「痛みと血管の関係」に着目している点だ。開発者の奥野祐次院長(顔写真)が言う。

「関節痛など炎症のある部位には、微細な血管が異常に増えていることが知られています。その新生血管には神経も一緒に対になって増えています。通常、炎症が治まれば新生血管も神経も消えてしまいます。しかし、慢性痛の部位では消えずに残り、それが痛みの原因になっているのです」

 従来、関節痛などはレントゲンで組織の異常を調べてきた。しかし、血管はレントゲンの画像には映らない。そのため、造影剤検査でないと分からないモヤモヤと増殖した微細血管の存在(異常)が、これまで見逃されていたのだ。

 寝ていたり、じっとしていても痛い関節痛、階段の上り下りや立ち上がったときの膝や腰の痛み、エプロンを結ぶときの肩の痛みなどは、モヤモヤ血管が原因になっていることが多いという。

「運動器カテーテル治療では、手首や太ももの付け根から挿入したカテーテルを痛みの部位まで移動させ、『チエナム』という抗生物質を直接投与します。この薬は溶けにくく粒子状になるので、微細血管を一時的に詰まらせて伴走する神経もろとも消失させるのです。薬は最終的には溶けて流れてしまいます」

■1度の治療で7割以上が満足いく改善

 治療は造影剤を使ったレントゲン画像を見ながら行われ、所要時間は患部が1カ所であれば早くて30分、平均で1時間前後。麻酔はカテーテルを挿入する部分の局所麻酔だけなので、治療後は止血のため1時間ほど休んで、ばんそうこうを貼って日帰りができる。

 また、モヤモヤ血管の増え方が重度でなければ、カテーテルを使うまでもなく、エコー画像を見ながら注射でステロイド剤を注入する治療法も可能。ステロイド剤には血管を退縮させる作用があるという。注射治療の所要時間は5~10分ほどだ。

「運動器カテーテル治療は、やっても1~2回。7~8割の患者さんは1回の治療で満足する程度まで痛みが改善します。部位や病気によりますが、3年の経過観察で約9割の人は痛みの再発がありません。改善の程度によって必要であれば、注射治療や理学療法(筋肉や関節のほぐし)、食事療法などを加える場合もあります」

 奥野院長が「痛みと血管の関係」を発見したのは、がん治療を行っていた勤務医時代。がんにできる新生血管を薬剤で潰すと、「痛みが楽になった」という患者が多くいたからだ。2007年から運動器カテーテル治療の研究を始め、これまで治療した患者は約1500人に上る。まだ知る人ぞ知る治療法だが、国内外で行う医師が徐々に増えつつある。

 治療費用は保険適用外(自費)で、運動器カテーテル治療が1部位1回27万円(税別)~、注射治療は1回6000円(同)。長年続く痛みに困っていたら、相談してみてはどうか。

▽埼玉県出身。2006年慶応義塾大学医学部卒。川崎市立井田病院、クリニカETで勤務。12年慶応大大学院博士課程修了後から江戸川病院勤務。17年10月クリニックを開業。〈所属学会〉日本整形外科学会、日本IVR学会など。

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