数字が語る医療の真実

ランダム化比較試験は常に適切な方法といえるのか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 敗血症に対して、ビタミンCとB1を投与して、死亡率を下げたという研究があります。しかし、それは介入前後研究によるものでバイアスの可能性があります。そこでバイアスを除いて科学的に検討するために、ランダム化比較試験が必要である、というのが現在の治療効果評価の科学的な流れです。

 しかし、実際にランダム化比較試験を行う場合には、参加してもらう敗血症患者もしくはその家族に参加の同意を得る必要があります。介入前後研究という問題のある方法とはいえ、40・4%の死亡率が8・5%にまで少なくなったという事実を説明して、比較試験の対照群、つまりビタミン投与を受けないグループに割り付けられることを納得できる患者がいるでしょうか。副作用の危険が不明な新薬ならまだしも、通常の食事でも取っているビタミンCやB1に副作用の危険は少ないでしょう。

 私が敗血症になったとして、このビタミン投与のランダム化比較試験への参加を打診された場合、試験への参加に関係なくビタミン投与をお願いしたいとなって、試験への参加は見送るのではないかという気がします。

“ビタミンが敗血症にどう影響しているか解明され、背景が同じグループで検討されなくては科学的に有効というわけにはいかない”。そんな森林太郎のような批判が出ること自体は健全です。

 しかし、介入前後研究のような問題のある方法でしか検討されていなくても、大きな効果が示された時には、現代においてさえランダム化比較試験を行うのは難しい状況があるのです。

 その時にかっけの論争が大いに参考になるのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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