注射の痛みを和らげるパッチ登場 “チクリ”我慢には弊害が

大人になっても恐怖が消えない
大人になっても恐怖が消えない(C)日刊ゲンダイ

 注射の痛みを感じにくくさせる薬があることをご存じか? 日大医学部麻酔科診療部長の加藤実医師に話を聞いた。

 今月13日、注射予定部位などに貼ることで麻酔効果が得られ、注射の痛みを和らげる外用局所麻酔剤「エムラパッチ(一般名リドカイン・プロピトカイン配合貼付剤)」が発売される。

 すでに2012年にはクリームが発売されているが、「塗った後密閉して皮膚への透過性を高める」という手技の手間を省き、「貼ればよいだけ」と簡単に使えるようにした。パッチ、クリーム共に健康保険適用だ。

「痕が残るほど皮膚を強くつねっても、痛みを感じることがないほどの効果があります」

 英国などでは10年以上前から「マジッククリーム」の名称で一般的に使われているが、日本では医師の間でも認知度が低い。加藤医師は「一部の小児科を除いて、患者側から言い出さなければ使われないのが現状。存在自体を知らない医師も多い」と指摘する。

 注射の痛みなんて我慢すべき、と考える人もいるだろう。しかし特に子供において、外用局所麻酔剤を用いる意味は大きい。

「小児にとって注射の痛みは身体的な痛み体験だけではなく、恐怖体験にもなります。記憶として定着し、その後の医療行為全般に対しても拒否的な行動を取るようになることが多々あります」

■小児にとって恐怖体験になることも

 カナダでは、包茎がある新生児に環状切開術が行われる。この時、麻酔を受けなかった子供と、外用局所麻酔剤を使った子供を、4カ月後のワクチン注射の時の痛みの反応を比べたところ、無麻酔の子供は泣き方、頭や手足のバタバタなどが明らかに過剰だった。

 一方、包茎手術で外用局所麻酔剤を使っていた子供は、ワクチン注射時には大泣きや手足のバタバタがあまりなかった。

 さらに、小児の時の繰り返す痛み体験は、思春期、成人期、老年期の慢性痛に進展しやすいことも分かってきた。例えば、小学生の時の腹痛体験がある子供は、その後の頭痛の有病率が5倍という報告もある。

「強い痛みや恐怖は中枢神経へ伝達されます。すると脳脊髄が痛み信号を感じやすくなる。痛みの刺激がなくなっても興奮が続き、中枢性感作という、神経の機能変化が生じ、痛みを感じやすくなります」

 つまり、痛みや恐怖は「その場限りの問題・やり過ごせる問題」ではない。その体験がもとになって、痛みを感じる閾値(反応する値)が低くなり、ほかの人はやり過ごせるような痛みでも「痛い、怖い」と感じるようになるのだ。

 外用局所麻酔剤は、パッチ、クリームどちらも、効果が出るのは使用して1時間後。混みあっている外来では「今からパッチを使うので1時間待ってください」なんていうのは現実的ではない。注射やワクチン接種など予定している処置がある場合は、事前に病院に問い合わせて外用局所麻酔剤を手に入れ、1時間前から貼っておく(塗っておく)のも一つの方法だ。

 なお副作用については、注射針の疼痛緩和の臨床試験で、パッチを貼った部位が一時的に白くなったり赤くなったりする皮膚症状のみだった。重篤な副作用は国内の臨床試験では認められていない。エムラクリームも海外で32年間使われているが、意識障害1例、振戦8例などが報告されているに過ぎない。また、エムラクリームとエムラパッチは、リドカインとプロピトカインという2つの局所麻酔薬の合剤であるため、それぞれにアレルギーのある場合は使えない。

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