がんと向き合い生きていく

「覚悟はできている」と考えていた患者が3カ月の命だと告げられて考えたこと

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

「3カ月」という数字がRさんの心にズシンと響きました。急に病院の廊下、待合室の景色が違って見え、空気が変わってしまったような気がしたといいます。このまま病院にはいられない気がして、急いで帰宅したそうです。Rさんは、自宅に帰ってからも何か落ち着かなくなっている自分に気づきました。

「あれほど『覚悟はできている』と思っていた俺はどこに行ってしまったんだ。3カ月後に俺は死ぬ。誰だっていつかは死ぬ。それなのに、俺はどうしたんだ。何が怖いんだ……」

 2種類目の抗がん剤の点滴を受ける時、Rさんは一方の腕で震えを抑えながら、注射をしてくれる医師に「覚悟はできているつもりですが、どうしてあと3カ月の命なのに抗がん剤をやるのですか?」と尋ねました。すると、40歳代と思われるその医師からこう言われたそうです。

「3カ月と決まったわけではないでしょう? 抗がん剤が効いたらもっと生きられますよ。誰だって生きたいのは当たり前じゃないですか。きっと効きますよ。一緒にがんばりましょう!」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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