花粉症治療の副作用 インペアード・パフォーマンスって何

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 花粉症対策は早く始めるほどいいといわれるが、近年注目を集めているのが「インペアード・パフォーマンス」だ。日本医科大学大学院医学研究科頭頚部・感覚器科学の大久保公裕教授に聞いた。

■自覚していない人がほとんど

 一般的にスギ花粉は、関東や九州では1月下旬ごろから飛び始める。花粉が飛び始める前から治療を開始した方が症状が出るのが遅くなり、その程度も和らぐ。だから1月半ばくらいまでには自分に最も合った治療法を見つけておくべきだ。年末年始の慌ただしさを考えると、今から念頭に置いておいた方がいい。

 花粉症の治療は「抗原(スギ、ヒノキ花粉など)の除去」「薬物治療」「花粉エキスを少量ずつ投与し、過剰な免疫反応を起こしにくくするアレルゲン免疫療法」など。

「内科医も担当することが多いため、メインは薬物療法。最もよく使われているのが抗ヒスタミン薬です。副作用として眠気、だるさ、喉の渇きがよくいわれますが、注意を促したいのが、インペアード・パフォーマンスという副作用です」

 インペアード・パフォーマンスは、集中力や判断力が落ち、作業効率が低下すること。眠気やだるさとは違い、無自覚であることが特徴だ。

 いつもなら終わっているはずの仕事量なのにまだ終わらない、急ぎの仕事なのに効率が上がらない――。これらは、インペアード・パフォーマンスが考えられる。

 ヒスタミンは鼻や皮膚においてはアレルギー反応を引き起こすが、脳内では「目が覚めている状態の維持」「学習能力を高める」「運動量を増加させる」といった“プラスの作用”をもたらす。

 抗ヒスタミン薬を服用するとアレルギー症状は改善する一方で、薬の成分が脳に移行し、プラスの作用がブロックされる。眠気とともに集中力、判断力、作業効率の低下を引き起こす。

「『ドライバーと花粉症に関する調査』では、抗ヒスタミン薬服用群と抗ヒスタミン薬以外の薬のみの群とでは、眠気、集中力や判断力の低下の感じ方に差が出ました」

 それによると、眠気では、「よく感じた」「時々感じた」を合わせると「抗ヒスタミン薬群」は54.8%に対し、「抗ヒスタミン薬以外の薬のみの群」は20%。集中力や判断力の低下では、54.8%対10%だった。

 眠気やインペアード・パフォーマンスの副作用は、労働生産性を下げ、経済的損失を招く。薬剤種類ごとの労働災害リスクを見た海外の研究では、麻酔薬、抗うつ薬、血糖降下薬、抗精神病薬などほかの薬を抜いて、抗ヒスタミン薬が労働災害リスクが一番高いとの結果が出ている。

■交通事故や転倒のリスクを上げる

 さらに問題は、場合によっては死をも招くことだ。その代表が、車の運転への影響。前出のドライバーと花粉症に関する調査では、6.2%の人が「事故を起こした・起こしそうになった」と回答。米国では、抗ヒスタミン薬服用者に対して自動車運転を禁じ、禁錮・罰金の罰則を設けている州もある。

 高齢者の昏睡、転倒問題も深刻だ。抗ヒスタミン薬とほかの薬の服用やアルコール飲酒などでリスクが高くなる。

 花粉症治療を専門とする耳鼻咽喉科医以外では、「とりあえず症状を抑えればいい」と、その医師が“定番”とする薬を簡単に処方しているケースがほとんど。 

「抗ヒスタミン薬の中でもインペアード・パフォーマンスを起こしにくい薬があります。患者が作業効率の低下を意識し、それが生じているようなら医師に伝えて、別の薬に替えてもらうべき」

 驚くほど生活の質が向上するかもしれない。

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