骨を丈夫にするだけじゃない ビタミンDの驚くべき実力

ビタミンDを豊富に含むお料理はたくさん!
ビタミンDを豊富に含むお料理はたくさん!(C)日刊ゲンダイ

「ビタミンDはカルシウムの吸収を助けて強い骨を作る。必要なのは骨折が心配な閉経後の女性や高齢者で、働き盛りには関係ない」――。いまだにそう思い込んでいる人も多いのではないか。しかし、長年の研究で結核やインフルエンザ、がんや認知症など多くの病気に関わっていることがわかってきた。

 春の日本小児科学会で「ビタミンDを継続的に取ると、肺炎やインフルエンザなどの急性呼吸器疾患の発症を減らせる」との国際研究が報告された。その発表者で研究をリードした東京慈恵会医科大学分子疫学研究部の浦島充佳教授が言う。

「研究のきっかけは国内の小・中学生を対象とした二重盲検試験です。ビタミンDは食事でも取れますが、9割は日光の力を借りて体内で作ります。日照時間が短い冬はその体内量が夏の半分に減る。それはインフルエンザなど上気道の感染症の流行期と重なります。そこでビタミンDとインフルエンザの関係を知るため、ビタミンDのサプリメントを取る群と偽薬群に分けてインフルエンザの発症状況を調べたのです」

 結果、ビタミンD群では167人中18人(10.8%)がA型インフルエンザを発症したのに対して、偽薬群は31人(18.6%)。予想通りだった。

 その後、この研究に関心を寄せる海外の学者と連携。ビタミンDの投与と呼吸器感染症との関係を調べた国内外の25の報告(2009~16年)を統合して、0~95歳の約1.1万人のデータを共同解析した。

「やはり、ビタミンDの錠剤を飲んでいた群は、そうでない群に比べて肺炎などの急性期の呼吸器疾患が2割少なかった」(浦島教授)

■多くの遺伝子のスイッチ役

 このビタミンDの意外な力はがんでも確認されつつある。

 米国でがんの分子生物学的研究を行い、国立がんセンター研究所がん予防研究部室長も務めた「銀座東京クリニック」の福田一典院長が言う。

「ビタミンDと発がん率・がんの死亡率の関連は、悪性黒色腫、乳がん、前立腺がん、直腸がん、卵巣がん、腎臓がん、食道がんなど多くの悪性腫瘍で示されています。例えば、大腸がん患者を追跡した調査でビタミンDが肝臓で代謝されてできるプレ活性型ビタミンDの血中濃度が高い人は、低い人に比べて大腸がん死亡率は半分でした」

 米国の病院で早期肺がん手術を受けた患者の5年間無再発生存率を調べたところ、夏に手術を受けて食事からビタミンDを多く取った群は、冬に手術を受けてビタミンD摂取が少なかった群に比べ倍以上成績が良かった。最近はパーキンソン病、認知症、うつなどとの関係も報告されている。

 ビタミンDにはなぜこんな力があるのか? 人は37兆個の細胞から成り、その多くは細胞核を持つ。その中に染色体があり、親の容姿や性質を伝える遺伝子が乗っている。

「ビタミンDは体内で2度代謝して活性型ビタミンDとなり、細胞核の受容体に作用して遺伝子を動かすスイッチ役となるのです」(浦島教授)

 ビタミンD受容体は小腸、骨、腎臓、副甲状腺、皮膚、脳、筋肉、肝臓、免疫細胞などほぼすべての組織で見つかっており、多くの遺伝子発現に関係すると考えられている。

 その中にはがんを抑制したり、異質な細胞をアポトーシス(自死)させたり、細胞周期に影響を与えたり、免疫細胞に作用して天然の抗生物質となる物質を合成する遺伝子なども含まれる。小腸でカルシウムの吸収を高めるなどして骨を丈夫にさせる働きは、そのひとつにすぎないのだ。

「病気になるのは、それを防ぐ遺伝子のスイッチ役の不足とも考えられるのです。ただ、健康な人はサプリは必要ありません。研究で使うのは、ビタミンD以外の要素で結果が左右されないためです。通常は30分程度外出し、魚を多めの食生活にすれば十分です」(浦島教授)

 国立環境研究所などによると、食事なしで必要量を得たければ12月の晴天の正午から顔と両手の甲だけ日に当てた状態で、茨城県つくば市で22分、札幌市で76分かかる。

 食事はどうか。

「日本人の食事摂取基準(15年版)」(厚労省)では1日の目安量は12歳以上で5.5マイクログラム。100グラム当たりのビタミンDの含有量は紅サケ33マイクログラム、干しシイタケ16.8マイクログラムなどだから、日頃の食生活から考えると「平成27年国民健康・栄養調査」(同)が男女とも目安量を超えるとしたのも無理ない。

 しかし、欧米では5~15マイクログラムを勧めており、冬は多く取る必要がある。

 ちなみにビタミンDの過剰摂取は体中にカルシウムを沈着させ、腎機能などを低下させる。

 しかし、これはサプリの大量摂取以外では起こらない。意識し過ぎる必要はなさそうだ。

関連記事