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減量手術の総本山 糖尿病歴10年未満なら約9割が“寛解”

四谷メディカルキューブ/減量・糖尿病外科センターの笠間和典センター長 
四谷メディカルキューブ/減量・糖尿病外科センターの笠間和典センター長 (提供写真)
笠間和典センター長 四谷メディカルキューブ/減量・糖尿病センター(東京都千代田区)

 体重が理想体重の2倍を超えると、死亡率は約2倍になり、糖尿病や心臓発作による死亡率は5~7倍に高まる。

 その肥満を解消し、合併する病気を治癒・改善させるのが「減量手術」だ。国内では2014年に術式のひとつが保険適用になり、年間約300例の手術が行われている。

 同センターは、その3分の1以上を手がける日本の減量手術の総本山。02年に国内で初めて腹腔鏡による減量手術を始めた笠間和典センター長が言う。

「減量手術は美容目的に行う手術ではありません。当院での適応基準はBMI30以上で、糖尿病、高脂血症、高血圧、睡眠時無呼吸症候群など肥満に起因する合併疾患を持つ人。インスリン注射の効かない重度糖尿病では、BMI27.5以上なら行います。適応年齢は18歳から65歳までの方です」

 BMIとは肥満指数のことで、「体重(キログラム)÷身長(メートル)の2乗」で計算する。

 BMI22が標準体重で、25以上が肥満と定義されている。BMI30以上は、身長170センチであれば体重87キロ以上だ(ただし、保険診療で行う手術の適応基準はBMI35以上)。

■症例数は日本一で手術死亡ゼロ

 減量手術は、簡単に言えば胃の容量を小さくする手術。主に4つの術式があるが、最も多く行われているのは保険適用の「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(LSG)」、次いで「腹腔鏡下スリーブバイパス術(LSGB)」という。

「LSGは胃だけをバナナ1本くらいの大きさにする手術で、所要時間は約1時間半。LSGBは胃を小さくした上に、食物が十二指腸や小腸の一部を通らないようにする手術で、所要時間は3~4時間。入院期間は、どちらも4泊5日です」

 術後の体重減少効果は1年から1年半のデータで、BMI平均42で約40キロの減少。ごく一部に食習慣が変えられずリバウンドする人もいるが、5年以上の長期的な体重減少が証明されているという。糖尿病も8割以上の人は、薬一切なしでヘモグロビンA1cが6・5以下にとどまる“寛解”の状態になる。他のすべての合併疾患も6割以上の確率で改善するという。

「糖尿病が寛解に至らないケースは、インスリンの分泌が枯渇しているような重度の方です。だから、手術は早ければ早いほど改善効果が見込めます。特にLSGBは糖尿病に対する効果が高く糖尿病歴が10年未満なら約9割の患者さんは寛解へもっていけます」

 糖尿病の改善効果は体重減少だけでなく、腸管ホルモンや胆汁酸の分泌が変わること、腸内細菌叢が改善することが関係すると同院のデータで証明されている。ただ、これだけでなく他に分かっていないメカニズムもあるという。

「海外の複数のデータでは、大腸がん、膵臓がん、乳がん、子宮体がん、前立腺がんなど肥満に関連するがんの罹患が3割以上減ると報告されています。また、米国の研究では、すべての合併疾患による死亡率が9分の1に減少するというデータもあります」

 高度肥満の腹腔鏡手術は難易度が高いが、減量手術の手術関連死の割合は胃がん手術より少なく平均0.2%。笠間センター長は、同センターでこれまで国内最多の1000例以上の減量手術を行っているが手術関連死はゼロという。

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