がんと向き合い生きていく

「いつまでも 生きている気の 顔ばかり…」人間はそれでいいんだ

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Rさんが入院した病室は4人部屋で、全員が肺がんの男性患者でした。隣のベッドのFさんは30代の独身で、トイレに行くときも酸素吸入が欠かせず、緩和ケア病棟(ホスピス)が空くのを待っているとのことでした。

 向かい側のMさんは50代で、標準治療が効かなくなり、新しい抗がん剤の治験を受けることになった方でした。入り口付近のKさんは70代で、再発した肺の再手術が決まり、外科転科を待っているといいます。

 普段は間仕切りのカーテンを閉めたままで、ほとんど会話することもありません。しかし、食事の時は4人ともカーテンを開けて雑談しました。いまの日本の政治について、アメリカの大統領について、野球のこと、相撲のこと……話題は多岐に及びました。

 一番若いFさんは、最も深刻な病状でしたが、医師や看護師のあだ名をつけるのが上手でした。「A先生、あれは『老人パンダ』ですね」「E看護師は『ウルトラウーマン』かな?」……そんな軽いジョークで病室の雰囲気が明るくなりました。ただ、一度だけこんな場面を目撃したそうです。母親が見舞いに来た時、面談室からFさんが真っ赤な目にハンカチをあてながら戻ってきたのです。みんな気づいていましたが、黙ったままだったといいます。

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佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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