末期がんからの生還者たち

精巣がん<2>「全身に転移しています」摘出後に衝撃の告知

がんから6年ぶりにマラソン完走
がんから6年ぶりにマラソン完走(提供写真)

 42歳のとき、「東京慈恵会医科大学付属病院・泌尿器科」(東京・港区)で、ステージⅢbという末期「精巣がん」の手術を受けるとき、大久保淳一さん(53歳=同区在住)は、担当医から、「術後は入院1カ月ぐらいで退院できて、会社(ゴールドマン・サックス証券)に戻れますからね」と、明るい声で説明された。

 20、30代に多い「精巣がん」は、米国のプロロードレーサー、ランス・アームストロング(1971年~)も治療の経験者である。

 大久保さんはがんに侵された片方の睾丸を全摘出した。手術後3日目、担当医からこう告知される。

「がんは腸、肺、首の各リンパ節など全身に転移しています。長い治療になりますから……」

 ショックは大きかったが、夫人が一言こう励ましてくれた。

「あなたなら何とかなるでしょう!」――。 

 翌日から、壮絶な化学療法が開始された。

 点滴で3種類の抗がん剤を挿入(多剤併用化学療法)した。しかし、その副作用が半端ではない。

 頭髪は脱毛し、枕元に洗面器を常備しながら、体をくの字に折り曲げて吐き続けた。もちろん、食べ物も喉を通らない。

■「看護婦の服装はまるで原発作業員」

 大久保さんが目を見張ったのは、抗がん剤の点滴を取り換えるとき、病室を訪ねて来る看護師の服装だった。 

「まるで原発・原子炉近辺で作業する作業員のようなゴーグルの防護服でした。もし医療ミスでも起こし、抗がん剤が皮膚に付着したら予想外の事故が想定されたのでしょう。それほど強度な抗がん剤が挿入されました」

 1クール(21日間)を3回、入退院を繰り返しながら、期間は3カ月にわたった。やがて、苦しい3クールの化学治療法が終了し、8月に入って2度目の手術を受けることになる。リンパ節をはぎ取る手術だった。

 3人の担当医師と、5人の看護師が付き、手術時間は丸1日、15時間にも及ぶ。大久保さんの体に、10本の管が通された。そのうちの4本は、ポンプで背中から挿入される麻酔である。

「もう、仮死状態だったでしょうか」と言う大久保さんも頑張ったが、15時間の手術中、医師や看護師はだれ一人、食事はもとより、トイレにも行かなかった。その甲斐もあって、47個のリンパ節が除去された。病理検査で、体からすべてのがんが消滅したことを知らされる。

 術後4週間の入院を経て、8月末に車椅子で退院し、2人の子供が待ちわびる自宅に帰った。

 大久保さんは、これですべてが終わったと喜んだ。ところが2カ月後、もうひとつの大掛かりな手術を受けることになる。

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