独白 愉快な“病人”たち

初の人間ドックで発見 DJ KOOさん脳動脈瘤で家族が一つに

「この経験をどんどん発信していきたい」とDJ KOOさん
「この経験をどんどん発信していきたい」とDJ KOOさん(C)日刊ゲンダイ

「脳の血管がいつ破裂するかわからない」という状況下にいる心境は、言葉では言い表せません。「あと何週間かしたら自分の存在がなくなるかもしれない」と思って、生まれて初めて人生が見えなくなりました。

「脳動脈瘤」が発見されたのは今年の9月。テレビ東京系の「主治医が見つかる診療所」という番組の収録で訪れた病院でのことでした。仮にこれがあと1カ月先の出来事だったら、今こんなに元気ではいられなかったかもしれません。

 人間ドックは人生初の経験でした。脳動脈瘤がわかったのはMRAという検査です。「左目の視神経の後ろの動脈に7・8ミリの瘤がある」とのことでした。しかも、その瘤にさらに瘤が発生した状態になっていて、いつ破裂してもおかしくない危険なレベルだったようです。医師からは「これはすぐに手術した方がいい。私の身内なら今すぐ手を引いて病院に連れていきます」と言われました。

 症状らしきものは何もなく、これまで仕事を休むということもありませんでした。ただ、片頭痛が頻繁にあって、「自分は頭痛持ちだ」と思っていたのです。それが術後に片頭痛がなくなり、気のせいか視野もすっきりしました。やはり動脈瘤の影響があったんですね。

■名医との出合いに感謝

 実際、瘤は視神経を圧迫していて、手術で片目が見えなくなる恐れもある難しい場所にありました。医師によると「この手術ができる医師は非常に限られている」とのことでした。

 そして紹介していただいたのが、北海道にある札幌禎心会病院の脳神経外科医・上山博康先生でした。脳神経外科では「神の手」といわれるほどの名医です。診察を受けたところ、上山先生から「開頭手術でよろしければ、私なら完治させられます」と言われました。

 迷いはありませんでした。迷う時間もありませんでしたし、何より先生の「私は人生を手術するのです。“手術したから多少目が見えなくなっても仕方がない”じゃなくて、患者さんがその先も不便なく人生を歩むために手術するのです」という言葉をとても心強く感じたのです。

 このタイミングでこの番組のオファーがあったこと、そしてこの先生に出会えたことは本当に感謝しかありません。でも、手術前のボクは自分が生きている感覚がありませんでした。先のことを考える余裕もなく宙に浮いた感じで、幸運の喜びも手術の怖ささえも感じられませんでした。

■6時間に及んだ手術はほんの一瞬の感覚

 手術は全身麻酔で薬が入った途端に意識がなくなり、「終わりましたよ」と起こされるまでほんの一瞬の感覚でした。瘤は最終的に9・8ミリと採寸され、手術は6時間に及んだようです。術後は、自分の頭の左上に細い管が入っていて、そこから脳内にたまる血を逃がしていました。手術中に脳へ血液が上がらないように首の動脈からも血を逃がしていましたから、頭と首から管が出ていて、手術直後の姿はすごかった(笑い)。

 手術から3日間は頭が痛かったし、全身麻酔の影響で気持ち悪く、一体どうなることかと思いました。でも術後すぐに会話ができ、3日目には重湯のような食事ができ、4日目には歩行ができ、1週間も経つと洗髪ができて、もうほとんど普通の体に戻っていました。

 瘤の発見から手術・退院までは、わずか20日間ぐらいでした。それから2カ月の自宅療養を経て、11月末に仕事に復帰したわけです。

 大学受験を控えた娘には最悪なタイミングだったと思います。術後の痛々しく弱々しい姿は、父親としては一番見せたくない姿でしたが、つらさを共有できたことは家族にとってよかったと思います。手術の日、娘がたったひとりで東京から札幌の病院まで来てくれたことは本当にうれしかったし、家内の愛情の大きさにも改めて気づきました。

 真面目な話、家族の中で誰か大病をすると、それまでの家庭の雰囲気は一変します。何を言っても面白くない。ジョークも言えない。「今日は何を食べよう」とか「何をしようか」ではなく、「これからどうなっちゃうんだろう」「どうしたらいいんだろう」ということで、頭がいっぱいになってしまうんです。

 だからもし、ボクが元気な姿を見せることで1万人のうち1人でも2人でも「KOOさんが手術をしてこんなに元気になったのなら、手術を受けようかな」とか、「人間ドックを受けてみよう」と思ってくれたらうれしい。そうしたら、その人も、その人の家族も救われますからね。もちろん例外もあるとは思います。でも、ボクはこの経験をどんどん発信していきたいと思っています。

▽でぃーじぇー・こー 1961年、東京都生まれ。80年代からディスコでDJを務め、93年にダンス音楽グループ「TRF」のDJ兼リーダーとしてデビュー。音楽クリエーターとして活動しながら、最近はバラエティー番組でも活躍中。2018年2月24日と25日にTRFデビュー25周年ライブが「Zepp DiverCity(TOKYO)」で開催される。

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