市販の咳止めや風邪薬 安易な服用が推奨されない理由

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 風邪の季節。長引く咳に悩んでいる人も多いに違いない。咳が止まらないからといって市販の咳止め薬や風邪薬を飲み続けるのはやめた方がいい。

「風邪による咳に対して、それを早く治す目的で市販の咳止めや風邪薬を使用することは推奨されない」

 米国胸部医学会(ACCP)の専門家委員会が「咳治療に関するガイドライン」をまとめ、こんな指針を発表した。

 さまざまな咳に対する治療法の効果を検証したランダム化比較試験を分析した結果、抗ヒスタミン薬、消炎鎮痛薬、粘膜充血緩和薬が含まれる風邪薬や、非ステロイド性抗炎症薬には効果を裏付けるエビデンスがなかったという。

 岡山大学病院薬剤部の神崎浩孝氏は言う。

「いずれも市販の総合感冒薬(風邪薬)に含まれていることが多い成分ですが、アレルギー、発熱、鼻水や鼻づまり、のどの痛みなどに使われるもので、直接的に咳を止める効果は期待できません。たとえばアレルギーが原因だったり、のどの痛みによって咳が出ている場合ならそれなりの効果はあるといえます。しかし、風邪が原因になっている咳の場合は、これらが主成分になっている総合感冒薬を飲み続けても咳は抑えられないのです」

 そもそも、風邪はウイルス性疾患だ。総合感冒薬を飲んでもウイルスは排除できないので、風邪そのものが治るわけではない。あくまでも発熱などの風邪症状を一時的に緩和させる効果しかない。咳が長引いているからと総合感冒薬を飲めば、余計な成分の薬を取り続けることになる。それだけ、眠気やふらつきなどの副作用から事故につながったり、間質性肺炎や肝機能障害といった重篤な副作用が表れる可能性もある。

 また、市販の咳止め薬も、去痰薬や解熱鎮痛薬などが配合されているものがほとんどだから、これらも必要のない成分を取ることになってしまう。日常生活に大きな支障がない風邪による咳は、一般的に7~10日くらいで改善する。薬で無理に咳を抑えるような治療は必要ないのだ。

 それでも、風邪が原因のつらい咳を止めたいケースもあるだろう。

「医師が風邪による咳止めとして処方している薬の代表的な成分は、鎮咳薬のコデインと気管支拡張薬のエフェドリンです。コデインは咳中枢を抑えて咳を止め、エフェドリンは交感神経を興奮させることで気管支を拡張させ、息の通りを改善します。抗ヒスタミン薬であるクロルフェニラミンも処方されますが、これはアレルギーによる咳を改善させる薬です」

■米国では「効果がはっきりしない」の報告

 コデインとエフェドリンは、咳止めとして一定の効果があるのは間違いない。これらが含まれる咳止め薬や総合感冒薬も市販されている。

 しかし使用には注意が必要だ。

「コデインは、便秘、呼吸しにくくなるなどの副作用があり、喘息、心臓病、肝障害などの基礎疾患がある人は使えないケースもあります。また、依存性があってコデイン中毒の患者もいます。最近、12歳未満へのコデインの使用が規制されました。しかし、小児でも使える総合感冒薬にもコデインが含まれているものがあるので注意してください」

 交感神経を刺激するエフェドリンは、心臓病、高血圧、糖尿病の患者は慎重に使う必要がある。コデインと同じく依存性があり、覚醒剤原料にもなるため、含有量が10%を超えて配合されているものは覚醒剤取締法の対象になるほどだ。

「そもそも、咳は痰やほこりなどの異物を体外に排出するための防御システムです。咳止め薬で咳と痰を止めてしまったことで、かえって症状が悪化する場合もあります。咳喘息、肺炎、場合によっては肺がんなどの重篤な呼吸器疾患が隠れている可能性もあるので、咳が長引くときは医師に相談してください」

 咳を止めるために、市販の咳止め薬や風邪薬を自己判断で安易に使わない方がいいのだ。

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