がんと向き合い生きていく

「効かなくなったら抗がん剤は中止する」そんな文書に落ち込む患者もいる

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

「気持ちが落ち込んでいる患者の話を聞いて欲しい」

 卵巣がんが再発したAさん(54歳)の担当医であるB医師から、こんな依頼を受けました。

 Aさんはがん性腹膜炎で腹水がたくさんたまっている状態で、病室を訪ねた時は点滴で抗がん剤を入れている真っ最中でした。言葉をかけると、Aさんは話し始めました。

「この間、B先生に『抗がん剤の効き目がなくなってきたので、もう治療は終わりにしましょう』と言われました。私は『いま終わりではなく、また効くかもしれないからもう少し続けてください』と無理にお願いしたのです。障害のある娘のことを考えるといまは死ねません。それで、無理して続けていただいたのですが、私、もう頑張れません。ずっと頑張ってきたのに、もう頑張れないのです……」

 Aさんは半年前、主治医と看護師さんと家族の前で「治療が効かなくなったら、抗がん剤治療は中止します。その後の延命の治療はしません」と記載された文書にサインをしたといいます。その時は本当にそれでいいと思ったのに、まさかこんなに早く効かなくなるとは思っていなかったそうです。そして、いまになって「続けて欲しい」と無理に頼み込んだことを気に病んでいらっしゃる様子でした。

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佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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