末期がんからの生還者たち

中咽頭がん<2>「口頭で社員に指示ができない経営者などいるものか」

三枝幹弥さん(提供写真)
三枝幹弥さん(提供写真)

 三枝幹弥さん(48歳=山梨県中巨摩郡在)は7年前の2010年秋、「山梨大学医学部」(中央市)に続き、「がん研有明病院」(東京・江東区)の精密検査で「中咽頭がん・進行ステージ4」の告知を受けた。末期がんである。がんは、喉の奥と左首のリンパ節の2カ所にあった。

 父、妻、実弟の家族が肩を寄せ合った診察室で、担当医師から3通りの治療法を説明された。

 1つ目の治療法は、手術で外科的に喉の奥と、リンパ節を切除する。三枝さんは、「生存率が最も高い治療法と言われましたが、最大の問題は、術後の生活でした。声が出せなくなるし、食べた物を飲み込むのが大変になるという説明でした」と語る。

 2つ目の治療法は、放射線療法と抗がん剤をあわせた化学療法併用放射線治療(CCRT)。統計的には生存率が多少劣るが、治療に成功すれば、声を失うことがない。

 3つ目は、先に左首のリンパ節手術を行い、その後、喉の奥と首に放射
線治療を行うもの。

 三枝さん家族は、病院内の喫茶店に場所を移し、治療の選択を話し合った。

 父と実弟は、「生存率が高い1つ目の治療法がいい。声が出なくなっても、何としても生きてほしい!」と切願した。しかし、三枝さんは、「声の出ない人生なんて考えることができませんでした」と言う。

■副作用で体調は日に日に悪化

 社員200人を抱える宝飾会社の副社長である。「口頭で社員に指示ができない経営者などいるものか」と、治療法を2つ目の「化学療法併用放射線治療」に懸けることに決めた。

 11月24日、入院した初日から点滴で抗がん剤(シスプラチン)を投入。この点滴を3クール(1クールは3週間)続けた。

 同時に、月曜日から金曜日までの5日間、時間にして約20分、「強度変調放射線療法」を33回受けた。入院は年を越えた。

 正常部位に放射線が当たらないように顔、首を固定し、その周りを機器がぐるぐると回る。

 抗がん剤や放射線の副作用で、日に日に体調が悪くなった。困ったのは食事が喉を通らないこと。

 腹部に造設した「胃ろう」で1日に3回、半固形のジェルを流し込んだ。体重は74キロから58キロまでに落ち込む。

 他方、「化学療法併用放射線治療」の効果は順調で、担当医から「頑張れ」と励ましを受けながら、ベッドにへばりついた。

 治療の後半になって左首にあったパチンコ玉半分程度のしこりが次第に小さくなった。やがて放射線医から、「これは凄い! 奇麗に消えていますよ」と告げられた。

関連記事