更年期女性の1割が発症 微小血管狭心症のリスクを知る

30~50代の女性は注意
30~50代の女性は注意(C)日刊ゲンダイ

 1月4日から仕事始めという男性も多いだろうが、この先しばらくは妻や同僚の女性の体調を気遣った方がいい。正月は休みどころか子供や孫、老親の世話や親戚付き合いで身も心もクタクタ。ちょっとしたことで体調を崩しかねない。なかでも注意したいのが微小血管狭心症だ。寒さや疲れ、ストレスが引き金となり、更年期の女性の1割がかかる。それだけに男性も知っておいて損はない。東邦大学医学部名誉教授(循環器)で平成横浜病院の東丸貴信総合健診センター長に聞いた。

「一般的な狭心症は心臓に酸素や栄養を供給する太い動脈(冠動脈)の痙攣・収縮で起こります。背景には動脈硬化があり、血流が不十分になるほど血管が狭くなると心臓を動かす血液が不足します。このとき発せられる心臓のSOSが狭心症です」

 これに対して微小血管狭心症は心臓を表面から包む髪の毛ほどの細さの末梢冠動脈が痙攣・収縮して心筋の血流が低下したときに起こる。

「この病気が、普通の狭心症と違うのは就寝中やデスクワーク中、テレビ観賞中など安静時に起こること。症状は胸への圧迫感や痛みのほか、背中の痛み、強い肩こり、歯が浮いたような痛み、みぞおちへの圧迫感など。一般的な狭心症と似ていますが、一般的な狭心症が15分以内で症状が治まるのと違って5分から半日と長くなります」

 発症の間隔が長いのもこの病気の特徴だ。1年に1回、あるいは3カ月に1度程度の割合で起こるケースが多い。

 厄介なことにこの微小血管狭心症は、一般的な病院での検査では「異常なし」で済まされることが多い。

「胸の痛みがあれば、医師はまずは狭心症を疑います。運動負荷による心電図検査、24時間観察するホルター心電図検査、冠動脈CT検査などを行います。そして最終診断として、カテーテルという細い管を冠血管内に入れて、造影剤で冠動脈の狭さや痙攣の有無を確認します」

 しかし、これだけでは微小血管狭心症は判断できないことがある。似たような症状を持つ病気に不整脈、胃や腸などの消化器疾患、心身症などがあり、別の病名を告げられ、治療しても症状が治まらないケースも多い。実はこの病気、かつては“シンドロームX”といわれ、病院で検査をしても異常が見つからず病名も診断されなかった。検査で特に異常が見られないが胸の痛みは確実にある。ならば、ということで付けられた除外診断的な病名なのだ。

■閉経前のリスクが高い

「一昨年、東北大学で血液中のセロトニン濃度がこの病気のバイオマーカーになることが発表されましたが、まだ実用化には至っていません。いまのところミクロン単位の毛細血管の血流を調べるのは、狭心症の症状がありながら冠動脈狭窄がない、と確認された場合です。そのときはカテーテルの先で冠血流の速さを調べられる装置や心筋血流を調べる特殊な画像検査を用いて検査します。ただし、この装置を持つ病院は少ないため、この診断名にたどりつかないケースが多いのです」

 微小血管狭心症も生活習慣病がもとにあるから喫煙、寒さ、緊張、疲労、ストレスや更年期などが誘因となることが多い。症状が目立つのは30代半ばから50代半ばの女性だ。

「実際、この病気の70%が女性です。女性ホルモンには血管を広げる作用があるため、本来なら女性は血管が詰まりにくいのですが、39歳くらいから女性ホルモンが減り始め、更年期は大きく減少します。そのため閉経前後の45歳から55歳までの女性はとくにこの病気になりやすいのです」

 そのとき、どんな治療が行われるのか。

「カルシウム拮抗薬や硝酸薬、β遮断薬(太い血管の痙攣があれば禁忌)、ニコランジル、サルポグレラート(セロトニン遮断薬)などが使われます。女性ホルモンとの関係が深いので、症状がひどい場合はホルモン療法を施す場合もあります。ただし、狭心症へ進行することも少ないですし、閉経後しばらくすると自然と治ることもあります。そのため多くの場合、薬も必要ありません。痛みで困っている場合は不安定狭心症や心筋梗塞になるリスクがあるので、薬による治療が必要です」

 ただし、就寝時に胸の痛みがあって狭心症を疑って病院を訪れる人の中には、逆流性食道炎だったケースも多い。「心臓の検査で異常なし」と言われたら、念のため消化器内科に診てもらうことも必要かもしれない。

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