皮膚を科学する

なぜ「入れ墨」は何年たっても消えないの? 医師に聞いた

 皮膚の表面を覆っている表皮細胞は、生まれて約4週間で“アカ”となってはがれて落ちる。しかし、針を使って皮膚に色をつける“入れ墨”は、何年たってもそう簡単に色あせない。どうしてなのか。「新東京クリニック/美容医療・レーザー治療センター」(千葉県)の瀧川恵美センター長が言う。

「皮膚は上から『表皮』『真皮』『皮下組織』の3層構造になっています。入れ墨は、アカとなってはがれ落ちることのない真皮の層に染料を送り込んでいるのです。真皮には血管が通っていて、通常、入れ墨の染料のような異物が入ると白血球の一種であるマクロファージが貪食して消化します。しかし、異物が大きかったり、量が多かったりすると消化できずに残ります。だから入れ墨は、染料の粒子がいつまでも処理できずに真皮内に残るのです」

 ただし、まったく色あせないということではなさそうだ。同じ色でも染料の原料の粒子が小さければ、徐々にマクロファージに貪食されて色が薄くなってくる場合があるという。また、表皮の角質層(死んだ表皮細胞)が厚くなれば色が薄く見える。逆に、年を取ると皮膚全体の厚みが薄くなるので、年を取ってからよく見えてくる場合もあるという。

「それに真皮に染料を入れるのでも、たくさん入れればそれだけ長持ちして色も鮮やかになります。ですから、術者(彫る人)の技術や使う染料の原材料の質などによっても、入れ墨の見栄えや色あせる程度などに違いが出てきます」

 では、入れ墨を消す治療として一般的にレーザー治療が行われるが、どのようなメカニズムで色を落とすのか。それにもマクロファージが大事な役目を果たすという。

「入れ墨除去では、色素に反応するレーザーを用います。レーザー光線を照射すると、レーザーが真皮にある色に吸収され、瞬時に熱を発して入れ墨の色素の粒子が粉砕されます。それをマクロファージが食べるのです。つまりレーザー治療は、色素の粒子をマクロファージが食べやすいサイズにする治療法なのです」

 ただし、前にも述べたが色素の量が多すぎると、マクロファージは満腹になって消化しきれなくなる。

 だから、完全に消すのはなかなか難しい。レーザー治療は入れ墨を「消す治療」というより「薄くする治療」と考えた方がいいだろう。

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