大腸がんのリスクがアップ 盲腸を安易に切除してはいけない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 近年、腸内細菌の研究が進み、さまざまな病気に関わっていることがわかってきた。そんな善玉腸内細菌の“隠れ家”になっているのが「虫垂」(盲腸)で、大腸がんの発症にも影響するという。

 虫垂は大腸の入り口の先端にある小さな器官で、かつては「必要のない器官」と見なされていた。人間が進化する過程で機能を失い、その跡だけが残ったものだと考えられていたのだ。そのため急性虫垂炎と診断されると、ほとんどの場合で虫垂を摘出する切除術が行われていた。

 しかし最近の研究で、虫垂の中にある免疫細胞が大腸の粘液中に分泌されている「IgA」という抗体を産生していて、腸内細菌の制御にも関わっていることがわかってきた。

 そのため、軽い虫垂炎では安易に切除はせず、まずは抗生剤で炎症を抑える保存的治療を行うケースが増えているという。

 日本消化器病学会専門医の江田証氏(江田クリニック院長)は言う。

「大腸内には100兆個もの腸内細菌が生息していて、バランスをとりながら免疫機能をコントロールしています。腸内細菌はバクテリアですが、大腸内に大量に生息しているのに腸の粘膜内に侵入し、感染症を起こすことはありません。これは、腸壁の粘液の中に分泌されているIgA抗体の働きによるものです。つまり、IgA抗体が免疫力を高め感染症を防いでいるのです」

 IgA抗体は虫垂のリンパ組織に存在する免疫細胞で作られている。そのため、虫垂を手術で切除してしまうと腸内細菌のバランスが一時的に崩れ、免疫機能に悪影響を与えてしまう。そして、これが大腸がんの発症をアップさせている可能性があるのだ。

■腸内細菌のバランスが崩れる

 2015年に発表された台湾の研究によると、虫垂を切除した人は大腸がんを発症しやすくなると報告されている。手術で虫垂を切除した7万5979人と、切除していない30万3640人を14年間にわたって追跡したところ、大腸がんの発症は、切除した人が切除していない人の1・14倍に上った。さらに、切除してから1年半~3年半の2年間に限ると、切除した人は2・13倍も大腸がんになりやすいこともわかった。

「大腸がんの人の大腸内では、フソバクテリウム・ヌクレアタムという腸内細菌が特異的に増えていることが報告されています。腸内細菌は大腸がんの発症に大きく関わっているのです。がんを退治するのは免疫細胞ですから、虫垂切除によって腸内細菌のバランスが崩れ、一時的に免疫力が低下した可能性があります」

 虫垂は重要な働きをしている器官なのは間違いない。急性虫垂炎に見舞われても、安易に手術で虫垂を切除することは避けた方がいいだろう。とはいえ、急性虫垂炎が重症化すると虫垂に穴が開いて腹膜炎を起こし、最悪の場合は死に至る可能性がある。病状によっては虫垂切除が不可避なケースもあるので、専門医と手術のメリットとデメリットを相談してベストな治療法を選択したい。

「また、虫垂を切除して大腸がんの発症がアップするのは、術後1年半~3年半で、それ以降はどちらもリスクが変わらなくなります。詳しいことはわかっていませんが腸内細菌のバランスが一定の期間で元に戻るのではないかと考えられます。大腸で働くIgA抗体は虫垂で作られていますが、小腸で働くIgA抗体は小腸のパイエル板というリンパ組織で作られています。切除された虫垂が担っていたIgA抗体を産生する機能を別の器官がカバーしている可能性もあります」

 すでに虫垂を切除してしまった人や、重症で切除せざるを得ない人も、いたずらに怯える必要はない。術後3~4年は大腸がんリスクが高いということを認識して、その期間は定期的に便潜血検査や大腸内視鏡検査を受けるようにすればいい。

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