Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

星野仙一さん命を奪った膵臓がんは糖尿病の「第4の合併症」

殿堂入り発表の会見をする星野仙一氏(2017年11月)
殿堂入り発表の会見をする星野仙一氏(2017年11月)/(C)日刊ゲンダイ

 闘将がそっと息を引き取りました。中日のエースとして活躍し、3チーム目の楽天の監督として念願の日本一に輝いた楽天球団副会長・星野仙一さんの命を奪ったのは、膵臓がんでした。享年70。

 膵臓がんの5年生存率はステージ1で40%。胃がんや大腸がんはほぼ100%ですから、その怖さが見て取れますが、突然の訃報に驚かれた方も多いでしょう。

 楽天の発表や報道などによると、がんが判明したのは2016年7月。急性膵炎の発症がキッカケでした。その後、闘病を続け、昨年11月28日には、自らの殿堂入りを記念するパーティーで元気そうな姿を見せていました。それから間もない12月、病状が悪化。今月4日、眠るように旅立ったといいます。

 がんの中でも難治がんの膵臓がんですが、見逃せないリスクがあります。糖尿病です。星野さんは長年、糖尿病に苦しんでいたようで、その影響が少なからずあると思われます。

 それを裏付けるのが、日本糖尿病学会と日本癌学会による「糖尿病と癌に関する合同委員会」が5年前に発表した調査結果です。35歳以上の男女約33万6000人を10年間、追跡。そのうち、がんを発症した約3万3000人を対象に、糖尿病の有無と発がん率を分析したのです。

 その結果、糖尿病の人はそうでない人に比べてがん全体のリスクが2割高いことが判明。がん別の発がんリスクは、膵臓がんと肝臓がんが約2倍、大腸がんが約1・4倍でした。

 糖尿病の患者数は推定1000万人で、予備群を含めると2000万人に上ります。糖尿病が疑われる人は、4割がほとんど治療を受けていないだけに、がん対策の点でも大きな問題です。

■千代の富士は酒豪で…

 なぜ、糖尿病の人が、がんになりやすいかというと、膵臓から分泌されるインスリンの影響が強いとされます。糖尿病で血糖値が上がると、それを下げるためのホルモン・インスリンの血中濃度が上昇。インスリンには、がん細胞の増殖を促す作用があり、糖尿病の人は発がんリスクが高まると考えられます。

 予備群によく見られる肥満や運動不足も、高インスリン血症の原因に。過度の飲酒や喫煙は、糖尿病とがんのリスクをどちらも引き上げます。これらが積み重なって、糖尿病はがんの大きなリスクなのです。

 星野さんもたばこをたしなんでいたようですが、昭和の大横綱・千代の富士も糖尿病で、元気だったころは強い洋酒を好む酒豪として知られ、膵臓がんで亡くなっています。

 糖尿病を患う期間が長引くにつれ、膵臓がんのリスクが増加。膵臓がんによる死亡は60歳以上が9割を占めています。その難治がんは早期発見が難しく、予防が第一。そのカギは、糖尿病対策です。糖尿病の3大合併症は神経障害、網膜症、腎症ですが、個人的には膵臓がんを第4の合併症に含めてもいいと思っています。その心構えで、膵臓がん予防に努めてください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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