治療の第一人者が警鐘 子供は1週間でネット依存状態に

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 子供がネットばかりやっていて成績が落ちた――。それはもしかしたら「ネット依存」かもしれない。2011年、日本で初めてネット依存治療を開始した久里浜医療センター・樋口進院長に話を聞いた。

 ネット依存の意味はなんとなく知っている人が多いだろう。しかし、「その危険性を十分に理解していない。医師、親、学校関係者も含めて、軽く捉えている人が大半」と、樋口院長は指摘する。

 久里浜医療センターでは新規、継続のネット依存患者が年間のべ2000人受診。身体的問題として、視力低下、頭痛、寝不足によるだるさ、肥満、腱鞘炎、栄養障害、体重減少、骨密度低下、心肺機能低下、体の発達障害が見られる。

「寝ない、動かない、食べない。ゲーム前は運動部に所属していたような子供でも、筋力、瞬発力、柔軟力、握力、持久力すべての項目で平均値よりずっと低い数値が出る。まだ10代なのに、肺機能は30~40代という子供も珍しくありません」

■治療の難しさは群を抜く

 同じ姿勢を続けるため血栓が固まりやすく、エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)を起こしやすい。アルコール依存症や薬物依存症と同様の脳の前頭葉の働きが悪くなる、という報告もある。

 ネット依存に陥るスピードは想像以上だ。

「1カ月、早い子供では1週間前後で“依存”と言える状態になる。パソコンでのオンラインゲームがきっかけになる子供が多いが、SNS、インスタグラム、動画などさまざまなもので依存が生じます」

 オンラインゲームは自室にこもりっきりになるので、度が過ぎれば親も気付きやすい。一方、SNSやインスタグラムの“主戦場”は、歩きながらでも使えるスマートフォン。頻繁に画面を見ていても、若者にありがちな行動として見過ごされやすいが、依存の深刻さはオンラインゲームの場合と同等だ。

 樋口院長は、日本のアルコール依存症、ギャンブル依存症研究の第一人者であり、臨床医だ。しかし、子供のネット依存の治療の難しさは群を抜いているという。

「相手が子供ということが大きい。同じ依存でも大人はある程度自分をコントロールする力がついている。子供はそれが乏しく、欲情、感情に支配されやすい。さらに、子供は嫌だと思ったら絶対に治療を受けない」

 だからこそ、ネット依存の兆候を示したら、できるだけ早い時期に治療者へ結びつけることが非常に重要だ。それができるのは親しかいない。

 まだ依存とまで言えない状況、つまりは子供のネットの使い方がそれほどひどくなく、かつ、親がしっかり指導できる場合は、親子が話し合い、ネット使用のルールを決めていく。

「親が強制すれば子供は反発するだけです。子供の主張を取り入れつつ、『○時間まで』と決める。破った場合、どれくらいネットを取り上げるのか、どうすれば返すのかなど、条件は細かく具体的に決めます」

 ルールを破ってネットを取り上げようとすると大暴れする。親を殴る。自殺未遂をする。その状況であれば、親だけでなんとかできるレベルは超えている。ネット依存治療の知識がある第三者(医療者)の介入が求められる。

「知識がない第三者では『飽きるまでやらせればそのうち飽きる』など誤ったアドバイスをしかねません。オンラインゲームは、そもそも飽きないようにつくられている上、無限にほかのアプリがあるので、やり続ければやり続けるほど、はまる仕組みになっています」

 仕事が忙しい父親でも、正月休みは子供と過ごす時間が長かったはずだ。子供はネットにはまっていなかったか?

■子供のネット依存とは

 勉強や情報収集に必要なネット利用を除いて、ゲームやSNSなどに過剰にはまり、「朝起きられない」「学校に行けない」「食事をしない」「成績が落ちる」などさまざまな問題が生じること。

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