末期がんからの生還者たち

前立腺がん・大腸がん<1>11時間に及ぶ大手術後に奇妙な夢を見た

吉田博行さん
吉田博行さん(提供写真)

 元大手銀行員の吉田博行さん(65歳=東京・世田谷)はこの5年の間に、2つのがんに侵された。「前立腺」と「大腸(直腸)」のがんである。

 2015年4月、独立行政法人国立病院機構「東京医療センター」(目黒区)で「大腸がん、ステージ3a」の告知を受け、11時間に及ぶ手術を乗り越え生還した。その直後、奇妙な幻覚を体験する。手術室からストレッチャーに乗せられ、集中治療室に搬送される間の出来事だ。

「一面、真っ黄色な菜の花畑があり、その上を風になびいて私が空中をフワフワ飛んでいるのです。その下に高校時代、バイクツーリングの遊び仲間で、バイク事故で即死した2人の友達がニコニコ笑っていました。俳優、故・丹波哲郎さんが描いたあの世の世界を再現するような……」

 夢か、それとも仮死状態であったのか。看護師から肩を叩かれて目が覚めたとき、菜の花畑がパッと消えた。

「夢の中に、女房が出て来なかったのは申し訳なかった」と、ジョーク交じりに、壮絶な2つのがん体験を語ってくれた。

■「ついに来たか!」

 吉田さんは栃木県足利市の生まれで、5人きょうだいの下から2番目。そのうち次男、次女はがんで亡くなった。

 2011年11月に、新宿で3軒ほど店をハシゴしてしたたか飲んだ。大ジョッキで生ビールだけでも数杯ほど飲んだろうか。帰宅してトイレに入ったが、オシッコが一滴も出ない。何度トイレに入ってもダメ。そのうち、腹が痛み出し、やがて我慢できないほどの激痛に襲われた。

 自宅から近い「小林外科胃腸科」(世田谷)に駆け込むと、「PSA値」が268・2もあった。

 前立腺特異抗原といわれる「PSA」は、前立腺から精液中に分泌されるタンパク質の一種。前立腺がんの腫瘍マーカーといわれ、健康な人の「PSA」が約2gn/ミリリットル以下。一般的には4gn/ミリリットルである。

 1週間ほど経て「東京医療センター」(元・国立東京第二病院)に検査入院。「針生検」を受け、前立腺周囲の9カ所からがん細胞が見つかった。

 担当医から「前立腺がんです。でも、残念なことに左側のリンパ節に転移しておりますから、手術はできません」と、説明された。きょうだい2人をがんで亡くしており、自身も「ついに来たか!」と思ったという。

 ホルモン療法(内分泌療法)で、前立腺がんの増殖を抑制する「リュープリン」という注射薬と、併せて抗がん剤の経口薬「カソデックス」も服用した。この投薬治療が3カ月間続く。

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