自覚症状なき誤嚥の原因 ラクナ脳梗塞とはどんな疾患か

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 肺炎は日本人の死因の第3位。それによる死亡者の大半が65歳以上の高齢者だ。池袋大谷クリニックの大谷義夫院長は、「特に要注意なのは唾液」と指摘する。

 大谷院長によれば、高齢者の死亡原因になる肺炎の70%を占めるのが誤嚥性肺炎。食べ物や唾液などが気管に詰まり、炎症を起こす。

 誤嚥は大きく2つに分けられる。

 ひとつは、食べ物や飲み物を気管に詰まらせ、むせる「顕性誤嚥」。“はっきり分かる”の意味である「顕性」が示すように、本人も周囲も気付きやすい。

 ところが、もうひとつの「不顕性誤嚥」は、夜間睡眠中に、唾液や胃酸が気道に流れ込んで誤嚥する。

「口腔内にアイソトープという放射性物質を付着させて行う研究では、高齢者では夜間にしばしば不顕性誤嚥を起こしているという結果が出ています。ところが、不顕性誤嚥は自覚症状がほぼないため、見逃されているケースが珍しくありません」

 顕性誤嚥の場合、喉の筋力の低下が主な原因。筋肉量減少で全身の筋力低下や身体機能の低下が起こるサルコペニアが近年注目を集めているが、顕性誤嚥にはサルコペニアが関係しているケースもあり、十分な栄養管理が必要になる。

■嚥下機能に関係する物質が減少

 一方、不顕性誤嚥は、意外な疾患が背後に隠れている可能性がある。それは、ラクナ脳梗塞だ。

「ラクナ脳梗塞で神経伝達物質ドーパミンの代謝が障害され、舌咽神経などで作られる物質サブスタンスPの量が減少します。サブスタンスPは嚥下機能を左右するので、誤嚥が起こりやすくなるのです」

 ラクナ脳梗塞は、高血圧、糖尿病などで進行した動脈硬化によって脳の細い動脈が詰まって生じる。無症候性脳梗塞ともいわれるように、たいていは症状がない。高齢者に脳のMRI検査を行うと、かなりの確率でラクナ脳梗塞が見つかるともいわれている。

「高齢者の不顕性誤嚥対策は、健康で長生きするための重要なポイントになります」

 喉の筋力低下を避けることも重要だが、まずは、生活習慣を改善してラクナ脳梗塞を起こさない。さらに、不顕性誤嚥による“害”を少しでも減らすようにする。

「睡眠中に気道に流れ込んだ唾液などが炎症を引き起こすのは、唾液に細菌がたくさん含まれているから。口腔内の清潔を保つことに努めなければなりません」

 毎日の歯磨きをおろそかにしないのは基本。定期的に歯科を受診し、歯石除去や、歯周病があればその治療を行う。入れ歯に不具合を感じるようなら、正しく調整する。

■1日4~5回の歯磨きを

 口腔内の乾燥は細菌の増殖を招くが、高齢になれば、噛む力の低下や持病の薬の影響で唾液の量が減るため、うがいを頻繁にしたり、主治医に対策を相談する。乾燥が進む今の時季は、加湿器を使ったり、喉あめなどをなめるのもいい。

「口腔内の細菌が減れば、誤嚥性肺炎のリスクは低下します。私は口腔ケアのために、起床時、朝食後、昼食後、夕食後、就寝前の1日4~5回の歯磨きを勧めています。特に、起床時と就寝前は、睡眠中に増殖した口腔内細菌対策として、念入りに歯磨きをしてください」

 また、葉酸の補給も不顕性誤嚥の回避に役立つ。葉酸はドーパミンの合成を促進する。鳥レバー、牛レバー、豚レバーなどに豊富に含まれている。

 ホウレンソウやブロッコリースーパースプラウトにも豊富に含まれ、これらの緑黄色野菜なら、毎日継続可能だ。

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