気鋭の医師 注目の医療

世界初! AIを使った画像診断でがん見逃しリスクを減らす

ただともひろ胃腸科肛門科の多田智裕院長
ただともひろ胃腸科肛門科の多田智裕院長(C)日刊ゲンダイ
多田智裕院長 ただともひろ胃腸科肛門科(埼玉県さいたま市)

 内視鏡は、日本が世界をリードする先進の医療分野。いまや消化器がんの早期発見には欠かせないが、それを阻む「壁」のひとつが医師による病変の“見落とし”だ。海外の大腸がんの研究では、前がん病変の見逃し率は24%に上るという。

 そのリスクを減らそうと、AI(人工知能)を使った画像診断の開発を進めているのが多田智裕院長だ。昨年10月、医学誌「イーバイオメディシン」に胃がんの前段階である「ピロリ菌胃炎」を判別するAIを開発したと発表した。AIによる画像診断は世界初。多田院長が言う。

「この研究では、内視鏡受診者397人分の画像1万1481枚にピロリ菌胃炎があるかどうかの判断を、内視鏡医23人とAIで競わせました。結果は、AIの正答率は87.7%。23人の平均82.4%を上回り、日本消化器内視鏡学会認定の専門医6人の平均88.9%と同水準。要した時間は医師が平均約4時間に対して、AIはたった3分12秒でした」

 ITエンジニアらと組んで開発したこのAIには、ピロリ菌感染者と非感染者の計1750人分、3万2208枚の胃内視鏡画像データが使われている。胃内部を8つの領域に分類し、その特徴をディープランニング(深層学習)という手法で学習させているという。

 多田院長がAIの開発に着手したのは、浦和医師会で胃がん検診の読影委員を務めているからだ。胃がん検診がレントゲンから胃カメラに置き換わり、画像のダブルチェックでは1時間に3000枚以上も目を通さなくてはいけない状況にある。

「その負担を感じていたときに、AI研究の権威である東大の松尾豊先生の講演を聞く機会があり、『AIの画像認識能力が人間を上回り始めた』という話をされていたのです。だったら、自分たちで内視鏡用のAIを作ってしまえばいいと。昨年1月から開発を始めたのです」

■医師70人が1年がかりの仕事も2時間で

 胃がん検診は浦和医師会が担当するだけでも年間5万~6万人分、200万枚以上の画像を専門医70人で1年がかりでダブルチェックをしている。それをAIに画像診断させれば、1年分がたった2時間で終わってしまうという。

 最初は、胃がんよりも比較的判別しやすいピロリ菌胃炎でAIの開発を始めたが、すぐ実行に移せたのは同院が年間1万件もの内視鏡検査(上部・下部含め)を行っている施設だからだ。いまは「胃がん」「食道がん」「大腸がん」のAIを並行して開発中という。

「胃がんのAIは、国内トップクラスのがん専門施設にも協力してもらい、ほぼ完成しています。撮影した静止画像だけでなく、検査中の動画でもがんのある場所を示してくれます。正答率は専門医を上回り、96%です」

 内視鏡のAIが普及すれば、患者はどこの施設を受診しても平均以上の精度の高い内視鏡検査が受けられることになる。がん医療の“均てん化”につながるわけだ。早ければ今年中に臨床現場で使えるように手続きを進めているという。

▽東京都出身。1996年東京大学医学部卒、2005年同大学院外科学専攻修了。東京大学医学部付属病院大腸肛門科、東葛辻仲病院などを経て、06年開業。東京大学医学部客員講師。〈所属学会〉日本消化器内視鏡学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医など。

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