がんと向き合い生きていく

意識がなくなる直前まで俳句を作り続けた患者さんがいる

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

「病舎裏 紫陽花の藍 四つ五つ」

 初めて週刊誌で佳作に選ばれて掲載された句で、W君は「これは『三つ四つ』ではダメ、『四つ五つ』でないといけないんです」と、うれしそうに教えてくれました。

「初外出 薄紅葉にも 眩暈せん」

「柿一つ カクみて明日は 見えざるも」

「行く春や 枕に子規の 病日記」

 病状の悪化を知らされ、痛みに耐えながらも、W君は「カリエスだった正岡子規はもっと苦しんだんです」と言っていました。そして、抗がん剤治療を受けながら、口癖のように「あー、忙しい忙しい」と言っては俳句に打ち込んだのです。

■瞬間、瞬間の癒やしが死の恐怖に立ち向かう心を支える

 短歌も作りました。

「寒風の 中にバス乗る 見舞い母 去り行きてなほ 窓辺離れず」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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