W君は若いわりにはたしかにしっかりしていました。それでも、心の中では落ち込むこともたくさんあったと思います。彼を支えてくれたのはもちろんご両親ですが、俳句を作ることも彼の心を支えたはずです。
W君は意識がなくなる直前まで俳句を作りました。
「癒ゆる日も あらんや桃の 空の下」
後に刊行された彼の句集に載っている句です。 フランスのモラリスト文学者、ラ・ロシュフコーは「太陽と死は直視できない」と言いました。正岡子規やW君にとっての俳句は、襲いかかる死の恐怖に立ち向かう心の支えになったのではないだろうか。そう思います。
がんと向き合い生きていく