がんと向き合い生きていく

意識がなくなる直前まで俳句を作り続けた患者さんがいる

都立駒込病院の佐々木常雄名誉院長(C)日刊ゲンダイ

 W君は若いわりにはたしかにしっかりしていました。それでも、心の中では落ち込むこともたくさんあったと思います。彼を支えてくれたのはもちろんご両親ですが、俳句を作ることも彼の心を支えたはずです。

 W君は意識がなくなる直前まで俳句を作りました。

「癒ゆる日も あらんや桃の 空の下」

 後に刊行された彼の句集に載っている句です。 フランスのモラリスト文学者、ラ・ロシュフコーは「太陽と死は直視できない」と言いました。正岡子規やW君にとっての俳句は、襲いかかる死の恐怖に立ち向かう心の支えになったのではないだろうか。そう思います。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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