便が出ないことも…雪道での“尻もち後遺症”を甘く見ない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 降り続いた雪の影響で路面が凍結、各地で転倒する人が続出している。頭や膝を打ってうずくまればすぐに病院に行くだろうが、尻もちくらいだと、「転んじゃった」と照れ笑いでごまかすのではないか。しかし、雪道での尻もちを甘く見てはいけない。思わぬ後遺症で後々苦しむことになりかねない。

 尻もちをついてお尻の痛みが3日以上続くという人は骨盤周囲の骨折やひび、ズレなどの異変が起きている可能性がある。

「みずい整形外科」(東京・目黒区)の水井睦院長が言う。

「尻もちで一番影響を受けるのは骨盤の中心にある仙骨、その下にある尾骨、仙骨の左右に位置する寛骨(腸骨・座骨・恥骨)などです。いずれも転倒による衝撃で強い痛みが表れます。高齢者は骨にひびが入ったり、折れることも多く、激しい痛みで歩くこともできなくなり、寝たきりになる可能性があります」

 なかには仙骨の粉砕骨折により、骨の破片がその真後ろにある腸に突き刺さって腸を傷つけ、腸障害を起こすこともある。

 尻もちをついて尾てい骨を折る人も多いがときに後遺症に悩まされる原因となる。

「尾てい骨とは正式には尾骨のこと。人間がサルから進化した名残ともいわれていますが、この骨を折っても痛み以外に大きな問題は起こりません。ただ、近くに肛門や直腸があるので、折れる方向によっては肛門をふさいでしまい、排便障害を起こす可能性があります」(水井院長)

 その場合、肛門から指を入れて尾骨の先端を押すようにして元に戻す、整復と呼ばれる治療が必要となることがある。

 お尻の痛みが引いた後に腰痛に悩まされる人も意外に多い。

「実は仙骨や尾骨などの痛みが、椎骨と椎骨の間のクッション役を務める椎間板の受傷による痛みを隠してしまうことがあるのです。その場合、仙骨や尾骨などの痛みが引いた後に椎間板ヘルニアが発覚します。私の患者さんで半年後に足のしびれや腰の痛みが出た40代の女性がいました」(水井院長)

■痛みが続くなら病院で検査を

 雪道の転倒でよくあるのが、尻もちをついた拍子に後頭部を打つことだ。その際、とっさに手をついたり、腰をひねって身を守ったために手や腰を痛め、その治療に注意が向いている間に、慢性硬膜下血腫が広がることがある。「赤坂パークビル脳神経外科」(東京・港区)の福永篤志医師が言う。

「慢性硬膜下血腫とは頭部への衝撃で頭蓋骨の下にある、脳を包む硬膜と脳がぶつかりあうことで血管が切れ、その隙間(硬膜下腔)に血がたまって血腫ができる病気です。時間が経ってから物忘れや筋力の低下が表れます。患者の半数は60歳以上ですが、40代、50代でも発症する。血液サラサラの薬を飲んでいる人は発症リスクが高くなります」

 この病気が恐ろしいのは打撲から1~3カ月後に発症し、記憶にない程度の軽い頭部打撃でもキッカケになること。「よくつまずく」「体が傾いて歩く」「スリッパがすぐに脱げる」などの症状から発覚することが多い。

「最初は頭が重い感じがして、やがて強い頭痛が表れるようになります。血腫ができた場所によってはマヒやしびれが起きます。なかには物忘れが激しくなり、精神的に錯乱、高齢者のなかには認知症症状を起こすこともあります」(福永医師)

 こうした後遺症に悩まされないためにはどうしたらいいのか?

「尻もちをついても痛みがしばらく続くようなら病院で検査を受けることです。一番まずいのがマッサージなどで様子を見ているうちに病気が進行してしまうこと。とくに体が弱ってくる中高年は尻もちくらいで病院なんて大げさなと思いがちですが、以前ほど体は丈夫ではありません。『病院の検査で無事を確認する』という気持ちが大切です」(水井院長)

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