末期がんからの生還者たち

卵巣がん<3>酒が一滴も飲めないのに抗がん剤で酔っぱった

大塚美絵子さん
大塚美絵子さん(C)日刊ゲンダイ

 2012年7月10日、大塚美絵子さん(埼玉県さいたま市在。当時51歳)は、「国際医療福祉大学三田病院」(東京・港区)で、「卵巣がん・ステージⅢC」の確定診断を受けた。

 治療法として大塚さんの主治医は、まず術前化学療法の実施を選択する。大きな理由が2つあった。

 ひとつは検査で採取した腹水中からがん細胞が検出されたこと。もうひとつは、腫瘍径が16センチと大きいことから手術が難しいことだ。しかも腫瘍が腹腔内に飛び散って(腹膜播種)おり全身状態も悪い。手術は適さない状態だった。

 卵巣がんは血栓ができやすいために、抗凝固剤のヘパリンが投与された。

 来る日も来る日もヘパリン投与である。期待の抗がん剤治療がなかなか始まらない。しかも投与5日目に主治医が、「予定通り抗がん剤治療を始められないかもしれません」と言う。ヘパリンの副作用で、肝臓障害が起きていた。

「手術ができないから抗がん剤投与という治療方針だったのにその抗がん剤治療が始められない。この時ばかりは死を覚悟しました」

 大塚さんはベッドに伏せ、大粒の涙をこぼしながら家族、友人、恩師、会社の人たち、医師ら、これまでお世話になった約40人に感謝の気持ちを込めてメッセージを書き残した。エンディングノートである。

■初回は泥酔したような錯乱状態に

 他方、問題のヘパリン投与ストップからほどなくして肝臓が回復。24日に第1回の抗がん剤(パクリタキセル+カルボプラチン)が投与(点滴)された。

 抗がん剤、パクリタキセルは強烈な治療効果を持つが、添加剤としてアルコール(無水エタノール)を含有している。副作用には個人差もあるが、直接血管内に注入することから、とりわけ下戸にはたまらない。大塚さんは酒を一滴も飲めなかった。

「初回は泥酔したような錯乱状態で、その後も気絶、幻覚、幻聴、二日酔いに悩まされました」

 しかし、治療効果はてきめんだった。7月、8月、9月と3クール実施し、腫瘍径が約半分に縮小。CA125(腫瘍マーカー)は1300から34まで低下した。

 11月13日、ようやく念願の手術日を迎えた。7時間20分に及ぶ大手術で、約30センチ開腹し、卵巣、子宮、腹部リンパ節57個を郭清した。

 しかし、苦しい治療の終了ゴングが鳴るまで、大塚さんにはもう一戦残されていた。年が明けて2013年1月から3月まで、再発リスクを抑えるための補助化学療法が待っていた。 

 ほぼ1年間に及ぶ治療費総額は、高額医療費限度額制度の恩恵もあり、個人負担(3割)で、約70万円前後だった。

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