数字が語る医療の真実

ビタミンEとβカロテンの抗酸化作用

アーモンドはビタミンEを多く含む
アーモンドはビタミンEを多く含む(C)日刊ゲンダイ

 ビタミンB1によるかっけの治療の歴史に始まった本欄のビタミンシリーズですが、今回のビタミンE、βカロテンをもって、一区切りということになりました。

 ビタミンEとβカロテンはかつて最も有望なサプリメントのひとつでした。動脈硬化やがんの原因となる体内の活性酸素を除去する抗酸化作用を持つため、その予防効果に大きな期待が寄せられていたのです。

 そのビタミンEとβカロテンの肺がん予防効果を喫煙者を対象に検討したランダム化比較試験が1994年に発表されています。

 多くの実験データにより論理的にはがんや動脈硬化を予防する効果が期待されたビタミンEとβカロテンでしたが、その結果は論理通りとはいかず、いずれもがんや心筋梗塞の予防に効果がなく、寿命を延ばす効果も認められませんでした。βカロテンに至っては、肺がんがむしろ増加し、死亡も多くなっています。この研究結果はフィンランドで行われたため、フィンランド・ショックとして大きな話題にもなりました。

 しかしこの研究から20年以上を経て、世の中はいまだ抗酸化作用ががんや動脈硬化を予防するという理屈だけに基づき、ビタミンEやそれに代わる抗酸化物質を含め、多くのサプリメントが飲まれています。

 かっけの歴史に見たように、論より証拠、論より事実というのが歴史を振り返った時に明らかなわけですが、なぜ効くのか理屈がわかっていなくても、事実としてかっけを治したビタミンB1が延々治療薬として認められなかった歴史は、ここでは理屈だけがわかっていて、事実として効果が示されていないものが逆に広く使われるという形で繰り返されています。

 我々は、今こそもう一度かっけの歴史にしっかりと学ぶ必要があるのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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