クスリと正しく付き合う

使うと酔っぱらってしまうかもしれない薬がある

(提供写真)
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 副作用のない薬はありません。また、一般的に副作用=有害事象と思われがちですが、副作用とは「目的としていない作用全般」を指します。ですから、有害事象もあればそうでないものもあります。また、有害事象の原因薬物を断定するというのは非常に難しいという問題があるのも事実です。

 一般的な薬の有害事象は、薬の血中濃度が正常範囲(有効域)であれば生じることはまれですが、有効域より血中濃度が高くなり、中毒域に入ると有害事象が起きやすくなります。ただ、血中濃度が有効域であっても有害事象の起こりやすい薬もあります。代表例としては、抗がん剤やオピオイド(医療用麻薬)が挙げられます。

 さらには、副作用でなくとも、「薬の特性」によって有害事象が起こるケースもあります。抗がん剤の中には成分をアルコールに溶かして用いる薬剤があります。たとえば、肺がんや乳がんなどさまざまながんに用いられる「パクリタキセル」がそれにあたります。

 パクリタキセルを1回投与すると、最大でビール500ミリリットル程度を飲むのに相当するアルコールを摂取する計算になります。ビールのロング缶1本を飲み干すことと同じわけですから、アルコールがまったくダメな人であれば、「泥酔」という有害事象が生じる可能性があるわけです。

 もちろん、この類いの抗がん剤治療を行う前には事前にしっかりと患者さんに説明し、アルコールが問題ないかどうかを確認します。しかし、医療者側が伝えない限り、わからない患者さんがほとんどでしょう。医療者側が「伝える必要がないと思った」と判断する可能性もゼロではありません。ですから、患者さんの側もこういった薬があるということを知っておくのは大切です。

 薬による有害事象から自分や家族の身を守るためにも、注意すべき薬剤の特徴を把握し、アレルギーや体質などの情報は些細なことでも治療前に伝えておくことが重要です。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

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