目のかすみや視力低下…実は「性感染症」が原因かも

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 性感染症の患者数が増えている。国立感染症研究所などによると2017年の梅毒の感染者数は、44年ぶりに5000人を突破。10年から8倍増となった。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者とエイズ患者数の累計は2.7万人を超え、沈静化しているようにみえた性器クラミジア、淋菌も12年以降増加傾向にある。そんな中、眼科医の間で心配されているのが性感染症による目の異変だ。眼科専門医で「清澤眼科医院」(東京・江東区)の清澤源弘院長に聞いた。

■梅毒2期以降でぶどう膜炎を発症することが

「性感染症というと陰部のかゆみやただれ、排尿時の痛みなどが代表的な症状ですが、目に表れることがあります。例えば梅毒による視力低下です。通常はいきなり目に梅毒が感染することはありませんが、初期症状が消えてから1~3カ月後あたりの第2期以降にぶどう膜炎を発症することがあるのです」

 梅毒は梅毒トレポネーマという病原菌が原因で起こる性感染症。感染して1週間から10日後に病原菌の侵入場所にコリコリとした硬結や潰瘍ができるが、これは治療しなくても自然と消える。これが第1期。さらに3カ月後には手のひらや足の裏などに赤い発疹ができる場合がある。これが第2期で多くは治療しなくてもやがて症状が消える。

「強力な抗菌薬の登場で梅毒は治療できるようになりました。そのため、かつてのように梅毒による典型的なぶどう膜炎を見ることも少なく、私自身も40年近い眼科医師生活で10例程度です。ただし、梅毒性の虹彩毛様体炎や視神経炎などは増えている印象があります」

 虹彩とは黒目の周りにある色のついた部分を言い、その伸び縮みにより光の量を調整する。毛様体は水晶体の厚さを調節してピントを合わせる働きをする。

「虹彩毛様体炎は虹彩にある血管が反応して虹彩とその隣にある毛様体に炎症を起こす病気です。通常は両目に発症します。視神経は、網膜で集められた光を脳に伝える神経線維の集まりを言い、そこに炎症が表れるのが視神経炎です。視神経炎が怖いのは放置するとやがて視神経萎縮が起きて失明するからです」

 HIVは、まぶたにみずいぼ、網膜に綿花様白斑および点状出血が表れやすい。

「HIVの網膜病変の初期では通常は視力等には影響せず、見逃されることがあります。ただ、HIVの典型的症状のひとつであるため、HIV感染を自覚していない患者さんが、これらの症状で眼科を受診して、初めてHIV感染が明らかになるケースも報告されています」

■新生児の感染も

 クラミジアは患者数が最も多い性感染症で、自覚症状がないことが多い。

「クラミジアが原因の眼病の中でもよく知られてきたのがトラコーマです。最近はトラコーマとは別のクラミジア結膜炎が性感染症でみられます。最初は目の充血や、黄緑色の目やに、まぶたの内側のブツブツなどの症状が表れます」

 クラミジア結膜炎には成人型と新生児型とがある。前者は性器クラミジア感染者の分泌物が手や指などから結膜に接触することから感染し、発症する。治療にあたってはアデノウイルスによって発症する流行性角結膜炎との鑑別が必要となる。

 一方、クラミジアに感染中の母親から産道感染によって新生児に発症するのが新生児型だ。

「生後約1週間で大人と同じような目やにや結膜充血などがみられます。成人型と同じで呼吸器感染症を併発しやすいことがわかっています」

 淋菌も成人型と新生児膿漏眼の2通りある。前者は尿道炎や咽頭炎を介して発症するタイプで、後者は母親の産道感染で起こるタイプだ。

「アデノウイルス結膜炎と誤診されることが多く、大量の目やにや、まぶたの腫れ、明らかな結膜充血が表れます。治療が適切でないと角膜上皮に点状のびらんができて、角膜に穴が開くことがあり、最悪失明します。新生児型は生後2~4日後に発症し、成人型同様、治療が遅れると角膜に穴が開き失明します」

 ほかにもこれに関連する性関連感染症には、毛じらみが眉毛に寄生してかゆみなどの自覚症状を起こすものや、ヘルペスウイルスによる結膜炎などがある。

「眼科を受診する際、普段とは違う相手と性交渉があれば医師に伝えましょう。パートナーにすでにうつしている場合もあり、その場合は2人で治療しなければなりません。医師は血液検査の際、性感染症の項目を入れることで正しい診察と治療ができます」

 恥ずかしがらずに包み隠さず医師に相談する。それこそが健康への道だ。

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