Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

医療にも人工知能普及 AIがん診断は胃も皮膚も正答率9割

 株価や行動パターンを予測したり、将棋や囲碁のロボットが人間のプロ棋士と勝負したり――。生活のあらゆるシーンに人工知能AIが組み込まれている今、医療もAI抜きでは語れません。

 がん研有明病院などのグループは、AIを活用することで高い精度で胃がんを検出できるシステムを開発。実際に臨床現場で使えそうな水準で話題を呼んでいます。

 グループはまず、1万2000万枚以上の胃がん画像のデータをAIに学ばせ、ディープラーニング(深層学習)という手法で病変を検出できるように学習。その“実力”を別の画像2296枚を使ってチェックしました。

 その結果、病変の検出率は9割超。特に早い治療が必要な6ミリ以上に限ると、71病変中70病変とほぼパーフェクト。ベテラン医師に匹敵する精度の解析が47秒で終了。1画像当たり0・02秒のスピードでした。

 胃がん検診は2年前から胃カメラで受けられるようになり、内視鏡医が不足しています。内視鏡検査で撮影される画像は1回150枚に上りますから、AIによる自動診断は医師の負担軽減として注目でしょう。

 全国32病院から集められた30万件の検査画像データがディープラーニングに使われていて、今後もデータの蓄積が進みます。ビッグデータがAI診断の精度を高めていくのです。内視鏡検査の診断は、医師の技量差が大きいだけに、病変の見落とし防止にも役立つでしょう。

 筑波大と京セラのグループは、AI診断を皮膚がんに活用。その正答率も9割前後。近い将来、がんの画像診断は、AIに置き換わる可能性が高い。CTやMRIでも、それらの画像データをAIに学習させ、自動検知する仕組みのシステム開発が進んでいます。

 手前ミソですが、東大医科研が「人工知能が人の命を救った国内初のケース」と発表したのは2年前の8月です。人工知能は米IBMのワトソンで、がんに関する2000万件の論文を学習。当時、医科研で急性骨髄性白血病と診断されて2種の抗がん剤治療を受けていた60代女性は、思うほど回復しませんでした。

 そこで、ワトソンに女性の遺伝子情報を入力したところ、10分ほどでより特殊な白血病と診断。AI診断を基に抗がん剤を変更したところ、女性の命が救われたのです。この女性のほかに、診断が難しかった2人についても特殊な白血病を見抜き、治療方針が決定されたほか、合わせて41人についてワトソンが診断や治療に役立つ情報を提供したのです。

 AI診断がますます普及するのは間違いありません。それで医師の仕事の多くが肩代わりされることから、患者の心を支えることが医師の仕事になると思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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