見逃しは減り排尿障害も回避 前立腺がん最新検査と治療法

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 前立腺がんに対し、東海大学医学部付属八王子病院が新たな試みをしている。泌尿器科准教授の小路直医師に話を聞いた。

 前立腺がんの早期発見のために行われているのがPSA検査だ。4(ng/ミリリットル)以上で前立腺がんの疑いありとなり、前立腺生検が実施される。

 前立腺生検は肛門または会陰部から前立腺へ6~20本ほどの針を刺し、超音波検査でがんの有無を調べる検査だが、いくつかの問題点がある。

「痛く、出血や感染症のリスクがあり、がんを見逃す可能性がある」

 そこで小路医師らが行っているのは、超音波にMRIを組み合わせた検査だ。超音波はがんの輪郭や大きさを大まかに把握できるが、内部構造までは分かりにくい。そこで特殊な機器で、内部構造が分かるMRIの画像と融合。がんがあれば3次元の画像として映し出され、生検に移る。

「PSA4以上→MRIと超音波で評価↓必要に応じて生検」という新たな流れによって、不要な生検と前立腺がんの見逃しが減少。近年、前立腺がんは体積0.5㏄以上の大きいがんであれば生命予後に影響し、小さいがんは予後に影響しにくいと分かってきたが、予後に影響するがんの見逃しも減った。

「450症例の患者さんに新しい生検と従来の生検を同時に施行した結果、従来の生検のがんの検出率35%に対し、新しい生検は検出率54%。予後が悪いがんの検出率は、従来の生検では20%、新生検では47%。明らかに有意差がありました」

 さらに前立腺を切除後、標本を用いてがんの場所、見逃しの有無について調べると、従来の生検のみでは予後に影響するがんの検出率は42%だったが、新たな生検では90%だった。

■術後24時間で退院可能

 この新しい生検は先進治療Aとして昨年承認され、11万300円で実施。全国7カ所の病院で行われている。従来の生検では過剰診断・過剰治療につながる可能性があり、今回の新しい技術はそれを避けることにつながると期待されている。

 小路医師らはこの生検を利用して新たな治療にも取り組んでいる。性機能や排尿に影響する部分を可能な限り温存する「前立腺部分治療」だ。

 前立腺がんは、たとえ患者への体の負担が少ないロボット治療(腹部に数カ所穴を開けて内視鏡とロボットアームを挿入してがんを切除)でも、術後合併症として勃起障害、排尿障害が出てくることがある。 

 しかし、小路医師らが始めたMRIと超音波の検査をすれば、前立腺がんの大きさや場所が分かる。勃起神経や尿道を回避して前立腺がんだけを部分的に治療できれば、勃起障害、排尿障害を起こすリスクは減る。

「そこで行っているのが、高密度焦点式超音波療法(HIFU)による前立腺部分治療です」

 HIFUは肛門から超音波を入れて、高エネルギーの超音波を「前立腺全体」に当てる治療法。しかし、小さな領域を狙い撃ちして治療できる特徴も持っている。小路医師はこの原理を利用し、「前立腺の中のがんとその周囲のみ」に超音波を当てた。体にメスを入れない上に、がんを狙い撃ちにするため、失われる機能が少ない。

「比較的長期間にフォローしている20症例のうち、勃起機能も術前の状態を保ち、排尿機能は術後3カ月目で手術前とほぼ変わりなしです」

 治療後は24時間以内に退院可能。こちらはまだ臨床試験中のため、行っているのは東海大医学部付属八王子病院のみだ。インターネットで「HIFU実施」の医療機関が多数出てくるが、それらは「前立腺部分治療」と異なる。適応基準も今後決まっていく予定。

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 米国の調査で「PSA検診は前立腺がんの早期発見につながらない」との指摘が数年前にあったが、複数の研究から現在は否定されている。たとえばスウェーデンで2万人を対象に14年間フォローした大規模試験では、PSA検診群は非検診群より死亡率が44%低く、世界5大医学雑誌「Lancet Oncology」に掲載。こうした事実を踏まえ、日本泌尿器科学会はPSA検診を推奨している。

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