がんと向き合い生きていく

「最期まで治療したい」という患者の気持ちは人間として当然のこと

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 消化器がんを専門とするA医師の母親(79歳)は肺がんで、2年ほど闘病を続けていました。しかし、次第に厳しい状況になって入退院を繰り返し、今回は呼吸困難が起こって外科病棟に入院することになりました。

 外科病棟は、ひっきりなしに手術や緊急入院の患者が訪れるので慌ただしい毎日です。A医師は「母をもう少し落ち着いた病棟で過ごさせたい」と思い緩和病棟への移動を申し込んでいました。

 母親には少しずつ緩和病棟の話をしていたので、A医師は「本人は納得してくれている」と思っていました。

 ところが、ようやくベッドが空いて緩和病棟に移る前日になって、母親からこう尋ねられたのです。

「あなたには聞きづらかったのだけど、いま飲んでいるがんの薬は緩和病棟に行ってもこのまま飲んでいていいんだよね?」

 A医師は愕然としました。緩和病棟入床の規定には、「がんに対する治療は行わない」とあります。A医師は母親に代わってこれに了解していたのです。そして、母親には「もう薬が効かなくなってきている」とは言いだせませんでした。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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