がんと向き合い生きていく

費用対効果をもってして「命の値段」をつけることができるのか

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 さらに、その免疫チェックポイント阻害薬は、年間1700万円もかかる薬(高額療養費制度の利用で、70歳以上75歳未満の一般所得者の自己負担額は月5万円程度)です。

「薬代が高いとか安いとかよりも、目の前の患者に最良の治療を提供するのが医師である」という意見もあります。その考え方だけでは国民皆保険制度が崩壊する恐れもあります。そうなれば、これまでのような治療の提供ができなくなってしまいます。

 もし、その高額薬を使い続けることで1年長生きできたとして、それは高いのか、安いのか。いってみれば“命の値段”をつけるということです。しかし、当たり前の話ですが、それは容易には判断が難しい問題です。

 多くの国で「増分費用効果」という言葉が使われています。かけた費用に対して、どれくらい効果があったのか。2つの薬があった時、それを比較するのに、費用対効果の点から検討されることがあるのです。1年長生きするのにどれだけの費用がかかり、それに見合った効果が得られたかどうか。しかし、それをどう評価するというのでしょう?

2 / 4 ページ

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事