がんと向き合い生きていく

費用対効果をもってして「命の値段」をつけることができるのか

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 もし、1年長生きできたとして、それを評価するのは難しい。

 それならば、その患者がその1年をどう生きたか、1年間の生活の質はどうだったのかを問う考えもあります。これは「質調整生存年」といって、寝たきりの1年だったか、健康的に生活できた1年だったか。これを数値として出して、他と比較しようという考えです。ただ、そんな数値を出したところで、寝たきりだとしても良かったと思う患者さんもいれば、他人から見て健康的な生活に見えたとしても、本人の心は地獄の1年だったかもしれません。それなのに、他と比較するためになんでも数値化しようというのです。

 新薬を承認する指標に費用対効果という数値を使って、みんなを納得させようとする。1年長生きできた、その薬剤の金額はいくらか? いくら以下なら国として承認できるか? ある国では年500万円ともいわれますが、「救う命と救わない命を金額で線引きするのか」という疑問も出てきます。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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