免疫力アップと注目だが 「ファイトケミカル」の落とし穴

植物由来だからといって必ず安全というわけではない
植物由来だからといって必ず安全というわけではない(C)日刊ゲンダイ

 ファイトケミカルという言葉をご存じか? 野菜や果物などが害虫や紫外線などから身を守るために産出する植物由来の化学成分のことだ。赤ワインに含まれ酸化を防ぐというポリフェノール、緑茶のカテキン、大豆のフラボノイド、ニンジンのカロテノイド類がその代表。人は野菜や果物などを取ることでファイトケミカルを手にし、抗酸化力や免疫力をアップできるという。しかし、このファイトケミカルには、人によっては健康被害をもたらすのではないか、との懸念がある。女子栄養大学副学長で、分子栄養学の専門家である香川靖雄栄養学部教授に聞いた。

■遺伝子によっては健康被害も

 生物に欠かせない糖質、脂質、タンパク質、ビタミンなどの栄養素は、それをつくったり、利用したり、分解する酵素や遺伝子はほぼ共通で数も限られている。そのため個別に代謝酵素が用意されており、人種差や個体差は比較的小さい。しかし、ファイトケミカルはそうではない、という。

「ファイトケミカルは薬、お酒、たばこと同じで生体にとってゼノバイオティクス(異物)です。その種類が極度に多いので個別の代謝酵素でなく、第1相解毒、第2相解毒というゼノバイオティクス共通の2つの装置によって代謝されます。そのため、人種や個体により吸収・分解の能力に大きな差があります。その結果、期待したようなメリットが表れず、健康被害となる恐れもあるのです」

 例えば、トマト、ワイン、ナッツなど、多くのファイトケミカルを含む地中海料理は世界一健康的な食事といわれる。しかし、それは白人に限っての話。日本人やハワイの原住民などに同じ効果が期待できるわけではない。

 その原因は遺伝子にある。日本人は飢餓耐性の遺伝子があり、白人と同じような量を食べると肥満になってしまう。

 遺伝子より塩分感受性が強いため高血圧になりやすい。地中海料理の特徴のひとつであるワインはアルコールの分解能力の低い遺伝子を持っている大多数の日本人には取りづらい。無理をすると強い二日酔いに見舞われる。乳糖を吸収・分解する能力が低い日本人は牛乳を取ると下痢などの消化器障害を起こすことがある。

「とくにゼノバイオティクスによる解毒の中心となるのが、CYPと呼ばれる酸素添加酵素です。第1相解毒の主要酵素として肝臓などで解毒等の働きをします。この酵素をつくるためのCYP遺伝子は多くの多型(変異)による個人差、人種差が存在します」

■喫煙は20倍、飲酒は256倍の差

 喫煙による肺がん発症率は、第1相解毒に関与するCYP1A1の遺伝子と第2相解毒に関与するGSTM1遺伝子の多型により20倍も違う。お酒に酔う時間もお酒に強い人とそうでない人とでは、アセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子の多型の違いで、256倍もの差が出るといわれている。

「不整脈や脳梗塞などを防ぐために処方される血液をサラサラにする薬にワーファリンがあります。この薬を1ミリグラム以上使ったら脳出血が増えて危ない人と16ミリグラム使わないと血液凝固を防げない人がいます。つまり処方量に16倍の差があるのです。だから、医師はワーファリンを使うときは事前に血液の凝固テストをして慎重に処方量を決めます。これはワーファリンに限ったことではありません」

 よく「外国で承認された効果のある薬をなぜ、日本で承認しないのか?」と疑問を持つ人がいるが、それは、薬の吸収・代謝に人種差があるため。それによって薬が体内に長くとどまると体に毒となるケースが少なくないからだ。

「ファイトケミカルはこうした薬やお酒、たばこと同じゼノバイオティクスなのです。だからこそ、テレビや雑誌などで有名人が『良い』とすすめたり、『私はこれで健康を取り戻した』などという個人の体験談は割り引いて聞く必要があります。あくまでも一般論に過ぎず、誰にでもあてはまるわけではないのです」

 ファイトケミカルは植物由来だからといって必ず安全というわけではない。一部の人には有効でも同じファイトケミカルによる健康被害は多数報告されている。そのことを肝に銘じておくべきだ。

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