Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

原因は口腔性交と経験人数 中咽頭がんは男性が高リスク

 HPVワクチンの接種を検討しているお子さまと保護者の方へ――厚労省は先月18日、従来の「子宮頚がん予防ワクチン」を「HPVワクチン」として新たにパンフレットを公表しました。

 子宮頚がんワクチンというと、副反応問題が話題になったことをご存じでしょう。今回の名称変更は、それをウヤムヤにしているのではなく、より病気を広く捉えたもので、世界の流れに沿った対応といえます。しかも、男性にも大きく関係するのです。

 子宮頚がんの発症原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染がほぼ100%で、中咽頭がんや肛門がんなどもHPVが原因であることがわかっています。その現実を捉えると、子宮頚がんワクチンではなくHPVワクチンとするのが妥当。このうち男性に大きく関係するのは、中咽頭がんです。

 HPVはセックスが媒介し、膣に感染するのが子宮頚がん、喉に感染するのが中咽頭がんです。膣と喉を結びつけるのはオーラルセックスにほかなりません。

 岐阜大学の研究グループが女性122人にオーラルセックスについて調査したところ、「必ず行う」「50%以上の割合で行う」と答えたのは77%に上りますが、「行わない」はわずか8%と少なかったのです。

 オーラルセックスは若い世代ほど定着していて、30歳以上は「必ず」「50%以上」の合計が57%でしたが、20歳以上は81%、10代は90%と若くなるほど増えているのです。

 その結果が中咽頭がんの増加です。このがんは喫煙も大きな原因ですが、オーラルセックスに伴うHPV感染による発症が広がっています。

 米国では60~70%、日本では半数がHPVが原因とみられていて、米俳優のマイケル・ダグラスさん(73)がセックスによって発症したことを告白した時は、世界的なニュースになりました。

■HPVワクチンで予防

 男性にとって見逃せないのは、HPVの発がんリスクが女性より高いことです。女性の経験人数が多いほどリスクは増します。実際にダグラスさんはセックス依存性だったといわれています。

 ですからHPVワクチンは、男女関係なく接種すべきなのです。そうすれば、子宮頚がんも中咽頭がんも予防できます。実際、欧米では男性の接種が普及しています。

 参考になるのが、日本と同じ女性のみ接種のハンガリーと周辺国のデータです。ハンガリーに隣接するクロアチアとオーストリアは男女接種で、中咽頭がん罹患率はハンガリーの5割未満と少ない。男女接種の効果は明らかでしょう。

 ダグラスさんがステージ4の末期から復帰したように、HPVによる中咽頭がんは治りやすいのも特徴です。今や治療法の選択は感染の有無で変わるようになっています。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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