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誤嚥性肺炎では抗菌薬を使わない治療も選択肢のひとつ

寺本信嗣医師(C)日刊ゲンダイ

 もちろん肺炎治療薬である抗菌薬を使わない選択は、患者や家族の同意があってのことだ。

■歌や会話が予防法

 そもそも誤嚥性肺炎は、食べ物が気管に入り込んで起こると思っている人が多いが、1回誤嚥したくらいではほとんど起こらない。高齢者が“治りにくい誤嚥性肺炎”になる原因は、のみ込む嚥下能力の低下。寝ている間でも慢性的に唾液などを誤嚥しているのだ。

「健康な人でも寝ている間に誤嚥しますが、それを寝返りや咳で解除しています。ところが高齢者は嚥下能力の低下で誤嚥しやすい上に、それを解除する咳反射も低下することで自覚のないまま慢性的な誤嚥を繰り返してしまうのです」

 嚥下能力は「のどの周りの筋肉」と「神経調節」の働きで行われている。神経調節では、嚥下反射(反射的に気道を閉じ食道を開く働き)をスムーズに行うために脳内で分泌されている「サブスタンスP」という物質が必要になる。ところが高齢者はうつや不眠などで、精神安定剤や抗不安薬、睡眠薬などの薬を飲んでいることが多い。これらの薬は、サブスタンスPの分泌を減少させてしまうという。脳梗塞の既往があると誤嚥性肺炎を起こしやすいのも、神経調節が障害されるためだ。

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