年をとったら「太る」を目指す

「低栄養だからエネルギーを多く入れればいい」は間違い

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 アメリカ栄養士会とアメリカ静脈経腸栄養学会は、低栄養の原因を3つに分類しています。「社会生活環境に関連した低栄養」「急性の炎症に関連した低栄養」「慢性の炎症に関連した低栄養」です。

 患者さんの低栄養がどの分類になるかを知ることは、今後の栄養管理を決定する上で非常に役立ちます。まず“社会生活環境”では、炎症はないが何らかの理由で食べられない状態です。患者さんのエネルギー・タンパク質の摂取量を高めることが治療になります。

“急性の炎症”は、たとえば大動脈解離の手術後や、誤嚥(ごえん)性肺炎を起こした時のような状態です。低栄養だからといって点滴などでエネルギーを過度に入れると、かえって筋肉の状態が悪くなります。「急性炎症でエネルギーが使われる→筋肉量が落ちる→低栄養を招く」ことは、急性炎症ではやむを得ません。

 この際、点滴などでエネルギーを過度に入れると、体重は脂肪で増えますが、筋肉の質と筋力が低下するおそれがあります。急性炎症の場合、まず炎症を抑えなくてはなりません。

“慢性の炎症”は、がん、慢性心不全、関節リウマチなど慢性的な疾患によるものです。運動で炎症を改善することが有効です。賛否両論ありますが、青魚の油に多いオメガ3系脂肪酸が炎症を抑えるという報告もあり、場合によっては使います。

 3つの分類のどれに該当するかは、疾患と採血データでだいたいわかります。CRPという炎症を示す血液の数値が5~10㎎/dl以上であれば急性炎症の低栄養、0.5~3㎎/dl程度が3カ月以上続けば慢性炎症の低栄養、ほぼゼロであれば炎症はなく社会生活環境に関連した低栄養です。

 では、これらの低栄養分類を日本のどの医療機関でもやっているのか? 残念ながらNOです。「低栄養だからエネルギーをたくさん入れればいい」といった考えだけで栄養管理を行っているところがいまだにあるのです。

若林秀隆

若林秀隆

リハ栄養、サルコペニア、摂食嚥下障害を特に専門とする。日本リハビリテーション医学会指導医・専門医。

関連記事