高血圧の新治療「腎デナベーション(除神経)」の実力

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 高血圧が改善しない患者への新治療として注目されているのが「腎デナベーション」だ。臨床試験を行う自治医大付属病院循環器内科・苅尾七臣教授に話を聞いた。

 高血圧には、適切な薬を正しく飲んでも数値が十分に下がらない薬剤治療抵抗性高血圧の人がいる。

 何らかの理由で定期的に薬を服用できない人もいる。そこで開発されたのが「腎デナベーション(除神経)」。血圧上昇に関係する腎動脈周囲の交感神経を焼灼する。

「日本では少なくとも3年、欧米では5年以上の成績がありますが、焼灼後、血圧の再上昇はなく、大きな合併症や副作用などは見られていません」

 高血圧の原因はさまざまだが、そのひとつが交感神経の活発化だ。

 ストレスなど何らかの理由で脳から腎臓へ伝わる交感神経が活発になると、腎臓からレニンという酵素が過剰に分泌され、アンジオテンシンⅡという物質が増加。血管収縮や塩分排出量減少によって血圧を上昇させる。

 一方、血管収縮で心臓から腎臓への血流が減少し、交感神経が活発化。やはり血圧が上昇する。

「腎デナベーションでは、大腿部あるいは手首からカテーテル(細い管の医療器具)を入れ高周波や超音波で腎動脈周囲の交感神経を焼灼します」

■一度の治療で効果継続

 これまでの研究では、薬剤を3剤服用しても収縮期血圧(上の血圧)が160㎜Hg以上の人、いわゆる薬剤治療抵抗性高血圧を対象にした臨床試験がある。シャム手術(見せかけの手術)を施行した群と厳密に比較した場合、腎デナベーション群で診察室血圧の低下度に有意な差は見られなかった。

 しかし、薬物治療が効きにくい早朝や夜間の血圧が有意に低下し、早朝、夜間ともにピーク時で約5㎜Hg低かった。さらに睡眠時無呼吸症候群(SAS)による高血圧でも有意に差が出た。SASでは、ピーク時で8・8㎜Hgの差があった。

「早朝・夜間高血圧やSASは交感神経の活発化と関係が強いため、腎デナベーションがよく効くと考えられます」

 また、世界的には未治療の患者を対象にした臨床試験も実施。診察室内血圧150㎜Hg以上、24時間血圧140㎜Hg以上の人を対象に、日本、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアで行われた。昨年8月のヨーロッパ心臓病学会で発表され、同時に「ランセット」(世界5大医学雑誌のひとつ)にも掲載された。

「本研究では、3カ月後の24時間血圧の変化は、収縮期血圧がシャム手術・対象群より5㎜Hg有意に低下しました。この低下度は、臨床的には脳卒中や心不全の20~25%の低下に相当します」

 未治療の高血圧患者にも腎デナベーションの効果が確認できたことから、今後はどの段階でこの治療を取り入れればいいのか検討される見込み。

 腎デナベーションは実施した患者全員に効くのではない。現時点の課題は、どの患者に効き、どの患者に効かないかの見極めだ。

「早朝・夜間高血圧やSASへは効果が高く、収縮期血圧だけが高く、拡張期血圧が90未満の血管が硬化した収縮期高血圧患者では効果が低い。詳細は今後の研究結果次第です」

 苅尾教授は、過去の臨床試験から、3分の2くらいの薬剤治療抵抗性高血圧に効くのではと考えているという。

 この治療は高血圧の薬をゼロにできるものではなく、治療後も服薬は必要。減薬の報告はある。また、レニンの分泌過剰による高血圧は腎動脈狭窄(腎血管性高血圧)でも起こるが、病気のメカニズムが違うので、今回の治療は効かない。

 なお、腎デナベーションの実用化に向けた臨床試験は、日本メドトロニック、テルモ、大塚グループのJIMROの3社が行っている。

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