皮膚を科学する

子供に「痛いの痛いの飛んでいけ」は効果があるのか?

「痛いの痛いの飛んでいけ~」
「痛いの痛いの飛んでいけ~」(C)PXTA

 人は体をどこかにぶつけたとき、思わずその部分に手を当ててなでたり、さすったりする。子供の頃、親に「痛いの痛いの飛んでいけ」と、さすってもらった人も多いはずだ。確かに痛みがやわらぐ気がするが、なぜなのか。桜美林大学リベラルアーツ学群の山口創教授(人間科学)が言う。

「皮膚の刺激は脳に直結していて、大量の情報を送っています。痛みもそのひとつ。そのため人の体は皮膚を触ることで、痛みを軽減するメカニズムがいくつも用意されています。『手当て』という言葉があるように、痛みのある部分に手を当て、なでたりさすったりすることで痛みがやわらぐのは確かです」

 そのメカニズムとして有名なものが、心理学者のメルザックと生理学者のウォールが、1965年に科学雑誌「サイエンス」に発表した「ゲートコントロール理論」だ。痛みの刺激が脊髄の神経を伝わって脳に到達する間にはゲート(門)があり、そのゲートが閉じられているか、開いているかで感じる痛みの程度が異なるという学説だ。

「皮膚で受ける触覚や圧覚の情報は、太いAデルタ線維を伝わって脳に届きます。一方、痛みを伝えるのは細いC線維です。触覚を伝えるAデルタ線維の情報は、痛みを伝えるC線維より速く脳に届きます。そのため皮膚を触ってAデルタ線維を刺激すると、痛みを伝えるゲートを閉じる働きをして、痛みを脳に伝えにくくするのです」

 子供に「痛いの痛いの飛んでいけ」と言いながらさすってあげることにも意味がある。実際に痛みが軽減すると、子供は呪文が効いたと思って不安がなくなり、安心する。すると、その心理的な作用でゲートはさらに閉じるという。

 皮膚を触ることの効果は、内分泌系の働きも関係する。痛みが脳に伝わると、中脳水道周囲灰白質という部分で痛みを制御する信号を出す。これが痛みが自然に軽くなる「下降抑制系」というメカニズムだが、その働きを強めるのが脳内ホルモンのオキシトシン。皮膚を触ることでもオキシトシンの分泌が促されるのだ。

「皮膚を触る効果の3つめは、皮膚に触覚の刺激があると脳でβエンドルフィンという物質がつくられることです。この物質は『脳内麻薬』ともいわれ、医療用麻薬のモルヒネと比べて鎮痛作用が約80倍強いとされます」

 皮膚は露出した第2の脳。皮膚を触ることは、脳を触ることなのだ。

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