天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

これからの心臓血管外科は「足の血管」の治療を無視できない

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 ダチョウの血管にはダチョウの細胞がたくさん存在するため、そのままでは人間には移植できません。まずはダチョウの細胞成分に超高圧をかけてダチョウの細胞成分を完全に取り除き、人間に近いタンパク質だけを残します。ただ、それだけでは血液がすぐに固まって血栓ができてしまい、まだ治療に使うことはできません。そこで、血管の内側に血液凝固を防ぐ血管構造を再生させるペプチド分子をナノテクノロジーによって並べることで、血栓の発生を完全に抑えることに成功したと報告されています。

 感触や硬さなどは人間の血管と変わりなく、実施されたブタの右足動脈と左足動脈をつなぐバイパス術では、抗血液凝固剤を使わなくても血管が詰まることはなく、1カ月後には通常の血管と区別がつかない血管内膜が新生したといいます。

 従来の合成繊維や合成樹脂で作られた人工血管は、小口径になるとすぐに血液が固まって詰まってしまうため、内径5ミリ以上が必要でした。動物の血管からできた人工血管も内径4ミリがギリギリです。心臓の冠動脈バイパス手術では、それよりも細い血管を使うケースも少なくないため、患者さん自身の内胸動脈や足の静脈を採取してバイパスとして使用するのが一般的です。先にお話ししましたが、足の動脈のバイパス手術では、他の血管が使えなかったり、かなりの長さが必要になる場合があります。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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